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山本太郎氏「消費税ゼロ」への高橋洋一氏の批判に徹底反論!(下)

山本氏の活動でようやく芽生えかけた消費税を本気で論じようという機運に水を差すな

斎藤貴男 ジャーナリスト

消費税廃止などれいわ新選組の主要政策を説明する山本太郎氏=2019年10月28日、大分市要町

 「山本太郎氏「消費税ゼロ」への高橋洋一氏の批判に徹底反論!(上)」に引き続き、れいわ新選組の山本太郎代表がかかげる「消費税廃止」を批判する元大蔵官僚・高橋洋一氏(嘉悦大学教授)の論考について論じる。

 高橋氏は『月刊Hanada』の3月号に掲載された「山本太郎の正体」の2ページ目で、唐突に〈「でたらめだ」と指摘すると逆ギレするのが民主商工会(民商)のいつもの手口である――〉と難じている。そこまでの記述に登場しない団体名がいきなり現れたので戸惑っていると、理由はそのすぐ後に書かれていた。

 山本氏は、消費税の廃止で失われる約27兆円の代替財源に、法人税の増税や各種優遇措置の廃止、所得税並みの累進税率導入などを挙げている。だが、この試算をしたのが民商の全国組織・全国商工団体連合会(全商連)に関わりのある税理士なのが問題だ、と高橋氏は言うのである。

民商を蛇蝎のごとく嫌う高橋氏

 よくわからない。共産党でも自民党でも、よいと思われる主張はどしどし取り入れたらいい。それだけの話ではないかと、筆者は思う。

 だが、高橋氏は民商を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っている。その理由について次のように書く。

 民商のHPでは「中小企業・家族経営の営業と暮らしを支え合う、助け合い運動に取り組む中小業者の団体」と説明しているが、この団体は実は日本共産党系の組織である。(中略)

 元税務署長である私の経験から言わせてもらうと、この団体は非常に厄介である。確定申告の終盤になると、民商が大挙して押し寄せてくるので、「署長は税務署に来ないでください」と署員から言われたこともある。

 この人たちの考え方の前提は、税金をなるべく払わないということであり、納税の義務というものをほぼ無視している団体なのである。

 確かに民商は共産党系の団体であり、税金に関する会員の相談に熱心だ。もともと戦後の占領下で強行された重税政策や、暴力的な差し押さえに抵抗して結成された組織である以上、自然の成り行きではある。日本国憲法から導かれる「応能負担」の原則にこだわり、大企業や富裕層を優遇したがる徴税当局とは対立する局面が多い。

 消費税の増税にも大々的な反対運動を展開する。やはり中小企業の組織である各地の商工会や、その全国組織である日本商工会議所の会員たちも、消費税には相当なダメージを受けているのだが、彼らは大企業や政府との関係を重視して反対しない。

 筆者は拙著『決定版 消費税のカラクリ』のための取材で、日本商工会議所の幹部に、こんな話を聞かされている。「われわれは保守の、体制の下にある組織なので、自民党や財界が消費税を進めるという以上、最終的には従うしかないと考えているのです。どこまでもこの枠組みの中で生きていく。消費税では譲る結果になったとしても、体制側にあることのメリットを、われわれは選びますよ」。その結果、ますます民商ばかりが際立つ構図になった。

 山本氏の消費税廃止論を大きく取り上げた『文藝春秋』を、高橋氏が〈いつから共産党の機関誌になったのか〉と指弾した所以(ゆえん)である。

透けて見える中小零細事業に対する蔑視

 ただ、だからといって“納税の義務を無視”はないだろう。誰しも税金に殺されたくはない。非合法でない限り、生活防衛としての節税はもちろん、憲法違反さえ疑われる不公平・不公正な税制に反対するのも、当然すぎるほど当然の、納税者の権利ではないか。

 そもそも高橋氏の論考には、独善的な論理展開が多すぎる。

 2023年度から開始される消費税のインボイス方式(適格請求書保存方式)を絶対視したり、「法人実在説」(法人は株主とは別個の存在として独自の課税対象になり得るとする)と「法人擬制説」(法人は株主の集合体で、その株主は所得税を納めているのだから、法人税は二重課税に当たるとする)を比較して、〈経済理論では実はほぼ決着がついている〉と後者に軍配を上げ、したがって法人税増税などとんでもない、そもそも法人税自体があってはならない税制であるかのように示唆したり。消費税増税批判を嫌悪する人々に共通する、中小零細事業に対する蔑視が透けて見える。

 インボイスが始まれば、これを発行しない年商1千万円以下の非課税事業者はそのことを取引先に告知する義務を負わされるのと同じことだ。とすると、納税義務のある取引先は、「ああ、この事業者から仕入れると、仕入れ税額控除を受けられないのだから、その分だけ余計に消費税を納めさせられることになるのだな」と判断し(事実その通りである)、その非課税事業者は必然的に取引の輪から排除されていく。それで潰されるのが嫌なら、年商1千万円以下でも消費税を納税しなければならない課税事業者になりたいと自ら当局に申し出るしかない。廃業・倒産の促進策と言って差し支えないのである。

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