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トランプから同盟破棄を突きつけられる恐怖

第4部「揺らぐ同盟―究極の取引至上主義」(2)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

 「米国は他国からだまし取られてきた」と考えるトランプ氏。米国は同盟国に対してもっとお金を支払うように要求し、長年にわたる損失を取り戻さなければいけない、という信念に一貫してブレはない。トランプ氏にとって同盟とは「ウィン・ウィン(両者が勝つ)」ではなく「ウィン・ルーズ(勝つか、負けるか)」の関係にある。そんなトランプ氏は同盟国によって米国の世界的な覇権が支えられているとは考えず、金銭的な損得勘定でとらえているため、同盟国側の不信を生んでいる。究極の取引至上主義といえるトランプ氏のもと、揺らぎを見せる同盟の今を追う。

「この国は米軍撤退を求めている」

 最大の障害となっていたマティス国防長官がいなくなったことで、トランプ大統領は米軍のシリア撤退の実現に向けた動きを加速させた。

 トランプ氏は2019年10月6日、トルコのエルドアン大統領と電話で協議。その後、ホワイトハウスは声明で突然、シリア北部に駐留する米軍部隊を撤退させ、少数民族クルド人勢力の排除を目指すトルコの越境軍事作戦に米軍は関与しない意向を表明した。翌7日、トランプ氏は「今こそ終わりなきバカげた戦争から抜け出すときだ!」とツイートした。

拡大ホワイトハウスで共同会見に臨むトルコのエルドアン大統領(左)とトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年11月13日

 中東地域からの米軍撤退は、トランプ氏の掲げるアメリカ・ファーストに沿った政策である。しかし、米軍のシリアからの撤退はワシントンの外交安保関係者の間ではとくに深刻に受け止められた。米軍のシリア撤退とは、すなわちトルコによるクルド人勢力への攻撃を容認し、見捨てることにほかならなかったからだ。

 米軍にとって、クルド人勢力は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で共闘してきた友軍であり、米軍から武器や資金の供給を受けつつ最も危険な地上作戦を担った。クルド人勢力の当局者は米メディアの取材に「米国は裏切り者だ。彼らは我々を見捨て、トルコによる虐殺にさらした」と憤った(Haltiwanger, John. “Trump's decision to abandon the Kurds in Syria sends a dangerous message to US allies around the world.” Business Insider 7 October 2019.)

 仮に米軍のシリアからの撤退が米国の利益になると判断しても、現実に撤退作戦を実行するうえでは、これまで米国に貢献してきたクルド人勢力の安全を確保する対応策をとることが、米国の最低限の責任といえる。

 しかし、トランプ氏にそのような視点は完全に欠落していた。

 トルコは9日、シリア北部でクルド人勢力に対する軍事作戦に踏み切った。

 16日、米ホワイトハウスで行われたトランプ氏とイタリア大統領との共同記者会見は、首脳会談そのものより米軍のシリア撤退問題に記者たちの質問が集中した。「エルドアン大統領の侵攻に青信号を出したことを後悔していないか」と記者から問われると、トランプ氏はしかめっ面で記者の質問を途中で遮り、「私は青信号を出していない。極めて詐欺的(な質問)だ」と語気を強めた(The White House. “Remarks by President Trump and President Mattarella of the Italian Republic Before Bilateral Meeting.” 16 October 2019.)

 トランプ氏の決断には身内である与党共和党からも批判の声があがった。今回の米軍撤退がほかの米国の同盟国に及ぼす影響を強く懸念していたからだ。

 トランプ氏と対立せずに円満退任したはずのニッキ―・ヘイリー前米国連大使は「我々は常に米国の同盟国を支援しなければいけない。クルド人勢力を見殺しにするのは大きな誤りだ」とツイート。いつもはトランプ氏の盟友的な存在である共和党重鎮のリンゼー・グラム上院議員(サウスカロライナ州選出)も「クルド人を見捨てたことで、我々は『米国は信用できない同盟相手だ』という最も危険なシグナルを国際社会に送ったことになる。中国、ロシア、イラン、北朝鮮が危険な行動に出てくるのは時間の問題だ」と強い懸念を示した。

 しかし、トランプ氏は「米国は(シリアから)7千マイル離れている」「彼ら(クルド人勢力)は第2次世界大戦やノルマンディー上陸作戦で我々を助けてくれなかった」「彼ら(トルコとクルド人勢力)は1千年間争い続けているのだから、戦争をさせておけばよい」などと独自の理論を展開し、批判を意に介す様子はなかった。

 トランプ氏が強気な言動を続けるのは、米国民の間で厭戦気分が広がっていることを背景に、米国の世論の大半が米軍のシリア撤退を支持しているという自信があるからとみられる。
トランプ氏が米軍のシリア撤退を打ち出したのは、2020年大統領選に向けた自身の再選戦略がある。

 トランプ氏はホワイトハウスで行われたイタリア大統領との記者会見でも、米軍のシリア撤退に反対したグラム氏の選出州の名前を挙げ、「サウスカロライナの人々は米国がNATO加盟国のトルコやシリアと戦争することを望んでいない。彼らは米軍部隊が故郷に戻ってくる姿を見たがっている」と述べ、こう付け加えた。

 「だから私は選挙で勝ったのだ。賭けても良い。私の政治的な勘だけど、それ(米軍撤退)をこの国は求めているのだ」

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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