メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「もっとカネを出せ」同盟国に用心棒代を迫るトランプ

第4部「揺らぐ同盟―究極の取引至上主義」(3)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

 「米国は他国からだまし取られてきた」と考えるトランプ氏。米国は同盟国に対してもっとお金を支払うように要求し、長年にわたる損失を取り戻さなければいけない、という信念に一貫してブレはない。トランプ氏にとって同盟とは「ウィン・ウィン(両者が勝つ)」ではなく「ウィン・ルーズ(勝つか、負けるか)」の関係にある。そんなトランプ氏は同盟国によって米国の世界的な覇権が支えられているとは考えず、金銭的な損得勘定でとらえているため、同盟国側の不信を生んでいる。究極の取引至上主義といえるトランプ氏のもと、揺らぎを見せる同盟の今を追う。

「我々は同盟国の面倒をみている」

 2019年6月に大阪で開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、さながらトランプ氏による「同盟国叩き」の様相を呈した。

 米国出発前の6月26日、米FOXビジネスのインタビューで、「日本が攻撃されれば、米国は第3次世界大戦を戦う。でも我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要はない。彼らができるのはソニーのテレビで攻撃を見ることだ」と主張。今度は矛先をドイツに向け、北大西洋条約機構(NATO)の国防費負担をめぐって「ドイツは払うべき(国防費の)額を払っていない」と非難した。日独とはいずれもG20の機会を利用した首脳会談が予定されていた。

 さらに出発直前にも、ホワイトハウスのサウス・ローン(南庭)で報道陣に対し、「我々は多くの国々と会談する。米国はこれまでずっとどの国からもだまし取られ続けてきたが、もはやこれ以上我々はだまし取られない」と宣言した(The White House. “Remarks by President Trump Before Marine One Departure.” 27 June 2019.)

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談後、記者会見を開き記者からの質問に答えるトランプ大統領=シンガポール、ランハム裕子撮影、2018年6月12日

 大阪に到着してからは早速、オーストラリアのモリソン首相との会談の冒頭、記者団から「アメリカ・ファーストは、多くの同盟国からすれば『アメリカ・アローン』(米国孤立)に見える」と質問されると、「我々は同盟国の面倒をみている」と反論。「私は同盟国との間の巨額の貿易赤字を引き継いでいるうえ、我々は同盟国の軍隊を手助けさえしている」と不満を表明した(The White House. “Remarks by President Trump and Prime Minister Morrison of Australia in Working Dinner.” 27 June 2019.)

 さらには、G20サミット閉幕後の記者会見では、日米同盟の核心である日米安保条約について「不公平な条約だ」と踏み込んだ(The White House. “Remarks by President Trump in Press Conference | Osaka, Japan.” 29 June 2019.)

 これまでトランプ氏のブレーキ役を果たそうとしていた国際協調派のティラーソン国務長官や同盟重視派のマティス国防長官らはおらず、トランプ氏は自身の言動をますます先鋭化させていた。同盟国に対して安全保障をめぐる負担が「不公平だ」と非難し、返す刀で貿易問題の妥協を迫るのがパターンである。

「もっとカネを出せ」

 トランプ氏は一方で、米国の競争国であるロシアや中国を始め、北朝鮮といった独裁・専制的な指導者と会えば、「我々はとても良い関係だ」と持ち上げる。

 トランプ氏は、1980年代の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のいじめっ子ビフのモデルとして知られている。トランプ氏は政敵にあだ名をつけて攻撃するのは得意であり、移民ら社会的な弱者にも容赦のない発言を繰り返す。「同盟国たたき」もガキ大将が子分たちに「だれがおまえたちを守っているのか。もっとカネを出せ」と用心棒代を迫っているようにみえる。

 G・W・ブッシュ政権で国務副長官だったリチャード・アーミテージ氏は「米軍兵士は、アメリカ独立戦争時のヘシアン(英国軍に従軍したドイツ人傭兵)ではない。彼らはそのように扱われることを望んでいない」と語り、トランプ氏の同盟国に対する態度を嘆いた(リチャード・アーミテージ氏へのインタビュー取材。2019年10月22日)。

ホワイトハウスで行われたイタリア大統領との共同会見で、記者からの質問に答えるトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年10月16日

 米国の覇権は、世界展開する米国の軍事力と密接に結びついている。米国の軍事力は時に中国やロシアといった競争国よりも、同盟国に対してよりレバレッジ(テコの原理)が効くことがある。同盟国は米国の軍事力に深く依存しているため、米国が自国の防衛に疑念を示すような言動をとれば、米国の要求にひざを屈せざるをえない。つまり、同盟国との間でひとたび貿易紛争が起きれば、米国は構造的に強い立場にある。

 ディールを得意だと考えるトランプ氏は、この米国と同盟国との力学関係をよく理解しているとみられる。

 ただし、元ホワイトハウス当局者は「歴代米政権は安全保障と貿易問題を表立って結びつけることをタブー視してきた」と語る。米国が身内であるはずの同盟国に軍事力を絡めた圧力を露骨にかければ、同盟国側から米国に対する不信が生まれ、同盟関係そのものが弱体化する恐れがあるからだ。

「韓国は扶養家族ではない」

 トランプ大統領が同盟国の中でも主要な標的としているのが、日本、ドイツ、韓国である。この3カ国の中で最も激しい攻撃を受けているのが韓国だ。

・・・ログインして読む
(残り:約2025文字/本文:約4375文字)