「米国は他国からだまし取られてきた」と考えるトランプ氏。米国は同盟国に対してもっとお金を支払うように要求し、長年にわたる損失を取り戻さなければいけない、という信念に一貫してブレはない。トランプ氏にとって同盟とは「ウィン・ウィン(両者が勝つ)」ではなく「ウィン・ルーズ(勝つか、負けるか)」の関係にある。そんなトランプ氏は同盟国によって米国の世界的な覇権が支えられているとは考えず、金銭的な損得勘定でとらえているため、同盟国側の不信を生んでいる。究極の取引至上主義といえるトランプ氏のもと、揺らぎを見せる同盟の今を追う。
1980年代から「ウィン・ルーズ」の世界観
「米国は他国からだまし取られてきた」
トランプ大統領は2016年大統領選中から、米国の同盟国や友好国に対する批判を展開してきた。
実は、トランプ氏はニューヨークの不動産王として知られていたずっと以前の1980年代から、一貫してこの主張を繰り返している。
「米外交政策の問題点は、もっと強い姿勢を示せば解決できる」
1987年9月、米紙ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブの3紙にこんな大見出しの全面広告が載った(Ben-Meir, Ilan. “That Time Trump Spent Nearly $100,000 On An Ad Criticizing U.S. Foreign Policy In 1987.” BuzzFeed News 10 July 2015.)。トランプ氏が9万5千ドルを個人で支出した公開書簡で、「自分たちで防衛する余裕のある他国の防衛のために、米国がお金を支払うことをやめるべき理由」と銘打たれていた。
トランプ氏が公開書簡で名指しして攻撃を繰り返したのが、当時バブル経済で好景気にわき、米国から経済的な脅威とみられた日本である。
「日本やその他の国々は数十年間、米国を利用し続けてきた」と切り出し、「日本やその他の国々は完全に扶養家族だ。なぜこれらの国々は米国に対して金を支払わないのか? 米国はこれらの国々の利益を守るため、人の命や数十億ドルを失っている」と批判。米国が中東のペルシャ湾で米国には関係のない同盟国向けの石油タンカーを防衛していることで「米国の政治家たちは世界中から笑われている」と自嘲気味に語り、日本は米国に防衛を肩代わりさせて巨額の防衛費を支払わなかったことで経済発展を遂げてきた、と指摘した。
トランプ氏は「いまこそ、日本やその他の国々によって作られた(米国の)巨額の赤字を終わりにするときだ」と指摘し、こう強調した。
「米国が日本、サウジアラビア、その他の国々を同盟国として防衛しているわけだから、彼らにその費用を払わせろ」

ホワイトハウスに到着し、トランプ大統領(左)の出迎えを受ける安倍晋三首相=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年4月26日
同盟国は自分たちで防衛できるほど「裕福な国」であるにもかかわらず、米国は利用されて無駄な支出をさせられ続けて損をしている。米国は同盟国に対してもっとお金を支払うように要求し、長年の損失を取り戻さなければいけない――。これがトランプ氏の終始一貫した同盟国に対する考え方である。
米国の外交安全保障問題に詳しいケイトー研究所のトレバー・スロール上級研究員は「トランプ氏はものごとのすべてを『ゼロサムゲーム(誰かが勝てば、誰かが負ける)』だととらえている取引至上主義者だ」と語る(トレバー・スロール氏へのインタビュー取材。2019年10月8日)。例えば、本来であれば貿易問題は「ウィン・ウィン(両者が勝つ)」の関係を目指さなければいけないのにもかかわらず、トランプ氏は「ウィン・ルーズ(勝つか、負けるか)」の関係だととらえているという。
「彼にとって貿易とは相手から盗むことであり、もし盗んでいなければそれは盗まれたということを意味するわけだ」
トランプ氏は、こうした「ウィン・ルーズ」の関係を安全保障問題における同盟関係にもあてはめて考えているという。
「トランプ氏は同盟関係も『ウィン・ウィン』の関係は成りたたないと考えている。だから彼は米国が同盟国にだまされていると考え、同盟国にもっとカネを払えと要求している。彼が最も重視しているのはカネなのだ」