シミュレーションから浮かぶ二つの可能性。究極の戦術をとる前にするべきことは
2020年03月29日
安倍晋三総理が「これから1、2週間が、急速な拡大に進むか、終息できるかの瀬戸際」として全国一斉休校を要請した記者会見(首相官邸HP)から3週間近くたった3月19日、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(参考)を発表し、現在の日本の新型コロナ対策の3本柱(基本戦略)は、
である旨を表明、これによって北海道の感染は概ね抑えられ、日本全体でも感染は制御できており、感染が認められないか終息に向かっている地域では、学校の再開を含めてリスクに応じた活動の再開を打ち出しました。
ところが、その6日後の3月25日、それまで1日20人以下だった東京都の新規感染者数が41人と急増したことを受け(東京都HP)、東京都の小池百合子知事が「何もしなければ首都封鎖」と述べて都民に週末の外出自粛を呼びかけるとともに(NHK NEWS WEB)、3月27日の定例記者会見では「緊急事態宣言ぎりぎりである」と表明しました(YAHOOニュース)。
今や東京は明日にも「首都封鎖」という雰囲気で、スーパーマーケットのレジに行列ができたり、一部の食料品が一時的に棚から消える事態まで生じていますが、この「首都封鎖」もしくは「東京ロックダウン」はほんとうに必要なことか、本稿では論じたいと思います。
上述の通り都内では、小池都知事の記者会見以降、新型コロナウイルスに対する緊迫感がかつてない程に高まっています。
しかし、落ちて着いてデータを見てみると、3月29日現在の日本の感染者数は1499人、東京は299人です。人口10万人当たりの感染者数で比較すると、スイス178.9人、イタリア155.6人、ドイツ70.4人、アメリカ38.7人、韓国18.9人に対し、東京は2.6人、日本全体で1.3人で、東京はイタリアの60分の1、ドイツの27分の1、アメリカの15分の1、韓国の7分の1に過ぎません(参考)。
また、イタリア、ドイツではロックダウンを行っていますが、韓国はロックダウンを行っていません。率直にいって今現在、「緊急事態宣言ギリギリ」でロックダウンをしなければならない、客観的根拠はないのです。
とはいえ、3月24日に17人だった感染者数が3月25日に41人にと一気に増えると、「倍々で指数関数的に今後さらに患者数が増えるのではないか?」という不安は生じます。感染症は「指数関数的」に拡大すると一般に信じられていますので、その心配は無理からぬところもあります。
しかし、感染症はかかった人の多くは一定期間後に治りますし(新型コロナウイルス感染症では概ね3週間前後)、免疫が形成された人は以後罹患しなくなりますので、指数関数ではなく釣り鐘型のカーブ(流行曲線)を描いて感染が拡大し、ピークに達した後は減少します。つまり、新型コロナの感染がこれからどこまで拡大し、感染者数が増えるのかを考えるに当たっては、単に現在の患者が急増したから「今後倍々と増えていく」というのではなく、現在のデータから流行曲線を予想し、何時、どの程度のピークになるかを考える必要があるのです。
では、現在のデータから、どの様な流行曲線が予想されるでしょうか。
3月19日の専門家会議でも説明に使われたので、皆さんも流行曲線を見慣れてきたと思いますが、多くの方は一体どのような数値からどの様な流行曲線が導き出されるか、ピンとこないと思いますので、私のブログ記事「新型コロナ感染シミュレーション・ワークシート(フリーダウンロード)」に最も基礎的な数理モデルであるケルマック―マッケンドリック数理モデルの解説と、このモデルに沿ってシミュレーションができるエクセルのシミュレーション・ワークシートをアップしました。興味のある方はご一読いただき、ワークシートをダウンロードして色々な数字を入力して流行曲線の変化を確認して頂ければと思います。
この数理モデルでは、一人の患者が治癒するまでに何人の患者に感染させるかを示す基本再生産数(R0)と、患者が感染してから治癒するまでの期間(D)、現在の人口(N)、現在の感染者数(I)、現在の感染済者数(R)を決めればその後の流行曲線を描くことができます。そして、D(新型コロナではほぼ20)とN(東京は13953577人)はウイルスの性質と対象となる集団の人口で決まりますので、実質的な変数はR0、I、Rになります。
ここに色々な数字を入れてシミュレーションしていただくと分かりますが、
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