公選法の規制対象外で「修正し放題」の選挙写真
2020年04月04日
選挙が近づくと、街中に選挙ポスターが掲示されているのが目にとまる。候補者がアピールする目玉政策を前面に打ち出すものから、所属する政党名だけを記載するシンプルなものまで、内容も、また色も文字数も多種多様だ。
ただ、ほとんどのポスターには、候補者本人の顔写真が映っている。選挙に関心をもつ一般の有権者にとっては、この写真が候補者のイメージを決定づけるひとつの重要な要素となっている。
しかし、中には、ポスターに映る写真と実物とのあいだにかなりのギャップがあるのではないかと、疑いたくなるような例もある。実は、この問題は国会で何度か取り上げられてきた。
公職選挙法35条は、選挙での当選を得る目的で候補者の身分、職業、経歴などに関して虚偽の事項を公にした者は「2年以下の禁固または30万円以下の罰金に処する」と定めていて、この規定は当然ながら、選挙ポスター内の文言に当てはまる。
では、ポスターの写真についてはどうか。例えば、2004年10月の臨時国会では、「候補者の写真があまりに古くて現在の容姿と異なる場合は虚偽記載ではないか」という質問がなされた。これに対する政府の答弁は、「虚偽事項公表の規定に該当しない」であった。政府はこの見解を今日まで一貫してとっている。つまり、現在の日本では政治家が選挙ポスターに若い頃の写真を使用しても法的に問題がないことになっているのだ。
本当にそれでよいのだろうか。
選挙ポスターには、しばしば写真とともに、実年齢や歴任した要職などの情報が記載される。有権者は、それらの情報と顔写真から得られるイメージを照らし合わせているのだろう。しかし、もし若いままの写真が掲げられると、有権者は「若そうなのにすでに立派な経歴を重ねている」、あるいは「年齢の割にまだまだ元気に働けそうだ」などといった、候補者の実像が正しく反映されていない印象を持ってしまう可能性がある。選挙によっては、そうした誤った印象にもとづいて有権者が投票先を決めることさえありえよう。
さらに、画像処理技術が発達した今日では、昔の写真の使用だけでなく、写真に映る顔のパーツを修正してより魅力的な顔立ちにすることも可能である。例えば、世界で最も普及している画像編集ソフトであるAdobe社のPhotoshopには、人間の顔修正に特化したツールが組み込まれており、目の大きさや位置、鼻の高さ、口角の調整などを、思うがままの理想に近づけることができる。もしも政治家が意図的にこうした加工を施しているとすると、有権者に対して文字通り「印象操作」をしている、ということになろう。
では、実際には、本当の年齢と比べてどのくらい若く見える写真を政治家たちは選挙ポスターに使っているのだろうか。また、そうした写真が作り出す候補者のイメージは、投票結果にどれほどの影響を及ぼしているのだろうか。われわれは、独自に収集したデータを統計的に分析することを通して、選挙ポスターでの「若作り」の実態を調べ、それが選挙にどのような効果を与えるかを検証してみた。
分析する素材として選んだのは、2019年4月の統一地方選挙で実施された東京都区議会議員選挙に立候補した方々の選挙ポスターである。衆議院や参議院の選挙では、メディアでの露出が多い現職議員や著名なタレントなど固定したイメージがすでに完成されている候補者も競い合っていて、ポスター自体が与える影響を特定しにくいと考えたからである。
われわれは、この選挙期間中(4月14日〜21日)に、選挙管理委員会が定めた選挙ポスターの公営掲示場に行き、ほぼ全ての候補者のポスター写真を画像データとして収集することができた。そして、Microsoft社が提供している顔認識ソフトウェア「Face API」を通して読み込んで、表情から様々な特徴を推定した。表情測定ツールは他にもあり試したが、事前の予備的分析の結果からFace APIから得られる推定は極めて信頼性が高い(誤差の少ない)と判断した。
Face APIは、性別の判定、顔の傾きやメイクアップの有無、さらにはどのくらい笑っている顔であるかといった感情についての様々な印象まで数値化して
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