米軍基地に到着した米兵は日本の検疫を受けずに町に足を踏み入れることができるのだ
2020年03月31日
3月28日、米空軍嘉手納基地(沖縄県)は、嘉手納基地所属の空軍兵2人について、新型コロナウイルスへの感染が確認されたことを公式フェイスブックで発表した。
報道によれば、沖縄県が一報を受けたのは1人目の感染を軍が発表したおよそ10分後で、「外務省沖縄事務所からフェイスブックを見るよう」連絡があり、さらにその30分後に沖縄防衛局から連絡が届いたという(沖縄タイムス 3月29日朝刊)。
新型コロナウイルスの感染が米国で広がりを見せる中、日常的に在日米軍の兵士やその家族、関係者と接する機会の多い沖縄県民は、密かに在日米軍内での感染を脅威に感じ、懸念していたのではないだろうか。28日の発表によってその恐れは現実のものとなった。その後、31日午前には最初の兵士の家族の感染が確認されたとフェイスブックで公表されている。
沖縄では地元のショッピングモールや映画館、屋内外のレジャー施設やレストランで日常的にアメリカ人と接することがある。基地周辺の市町村で暮らす県民にとっては近所にアメリカ人家族が住んでいることは珍しくない。基地内で働く県民も多い。
そのため在日米軍基地や施設内でもし感染が広がれば、フェンスを越えて沖縄県民のコミュニティにも感染が広がる可能性は高い。
しかし、今回の感染確認が私たちに突きつけている脅威は、単なるフェンスを越えた感染拡大のリスクだけではない。それは日本の検疫体制に大きな穴が存在し、公衆衛生に関する重要な情報について、日本国民は目隠しをされた状態で日々を過ごしているという実態である。
沖縄県の「他国地位協定報告書」(平成31年)によれば、2011年6月時点で沖縄県の米軍駐留人数は約2万5千。しかし沖縄に配属された何千、何万という数の米兵が那覇空港などで列をなして入国審査や検疫を受けることはない。
データが公表されていないので正確な割合は不明だが、配属された米兵の多くは米軍の航空機や船舶で、基地などの米軍施設に直接到着することになる。
それでは、その入国手続きや検疫手続きはどうなっているのだろうか?
日米地位協定第9条2項に「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される」とあり、米兵が日本に入国する際、入国審査などの手続きは免除されている。
検疫手続きについては、日米両政府が1996年に合意した沖縄に関する特別行動委員会の最終報告(いわゆるSACO合意)の中に、「(1996年)12月2日の日米合同委員会により発表された更改された合意を実施する」と記載されている。
その合意の中身を見てみると、人の検疫について、米国に提供された施設及び区域から日本に入国する米国の船舶や航空機の乗員は「合衆国軍隊の実施する検疫手続き」を受けるとされている。
つまり基地などの米軍施設に直接到着する航空機や船舶については、日本国は検疫を行えないのだ。
合意文書には、米国の検疫官が「検疫伝染病(現在は検疫感染症)」の患者を発見したときは、所轄の日本の検疫所長に通報するとあるが、そうでなければ検疫の基準、方法、結果を含めて米国側が日本政府に報告する義務はない。日本人が基地に入ろうとすれば身分証明書の提示や許可が求められるが、米兵やその家族が基地から外に出る際に日本側からは何のチェックも受けない。
つまり、米軍基地に到着した米兵は、日本の検疫を受けないままゲートを通過して周辺の町に足を踏み入れることができるのだ。
沖縄の米軍基地に限らず、日本各地にある在日米軍基地でも日々、同様のことが起きているはずだ。
日本政府が米国全土からの入国を拒否する方向で調整に入っていることが3月28日に明らかになったが、基地などの米軍施設に直接到着する米兵については入国審査も検疫も実施できないので、拒否どころか把握することもできない。
これは日本の検疫体制に存在する大きな穴だと言えるだろう。
今回は、2人とも欧州から戻った後に感染が確認されている。日米合同委員会の合意に基づけば、米軍基地の実施した検疫で感染が確認されたのであれば、検疫感染症として所轄の日本の検疫所長に届けなければならなかったはずだ。
しかし、3月30日に嘉手納空軍基地を所轄する那覇検疫所に問い合わせたところ、米軍からの報告があったかどうか、またいつ報告があったかについてはいずれも「お答えできない」との返答だった。
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