阿部 藹(あべ あい) 琉球大学客員研究員
1978年生まれ。京都大学法学部卒業。2002年NHK入局。ディレクターとして大分放送局や国際放送局で番組制作を行う。夫の転勤を機に2013年にNHKを退局し、沖縄に転居。島ぐるみ会議国連部会のメンバーとして、2015年の翁長前知事の国連人権理事会での口頭声明の実現に尽力する。2017年渡英。エセックス大学大学院にて国際人権法学修士課程を修了。琉球大学客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米軍基地に到着した米兵は日本の検疫を受けずに町に足を踏み入れることができるのだ
沖縄県の「他国地位協定報告書」(平成31年)によれば、2011年6月時点で沖縄県の米軍駐留人数は約2万5千。しかし沖縄に配属された何千、何万という数の米兵が那覇空港などで列をなして入国審査や検疫を受けることはない。
データが公表されていないので正確な割合は不明だが、配属された米兵の多くは米軍の航空機や船舶で、基地などの米軍施設に直接到着することになる。
それでは、その入国手続きや検疫手続きはどうなっているのだろうか?
日米地位協定第9条2項に「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される」とあり、米兵が日本に入国する際、入国審査などの手続きは免除されている。
検疫手続きについては、日米両政府が1996年に合意した沖縄に関する特別行動委員会の最終報告(いわゆるSACO合意)の中に、「(1996年)12月2日の日米合同委員会により発表された更改された合意を実施する」と記載されている。
その合意の中身を見てみると、人の検疫について、米国に提供された施設及び区域から日本に入国する米国の船舶や航空機の乗員は「合衆国軍隊の実施する検疫手続き」を受けるとされている。
つまり基地などの米軍施設に直接到着する航空機や船舶については、日本国は検疫を行えないのだ。
合意文書には、米国の検疫官が「検疫伝染病(現在は検疫感染症)」の患者を発見したときは、所轄の日本の検疫所長に通報するとあるが、そうでなければ検疫の基準、方法、結果を含めて米国側が日本政府に報告する義務はない。日本人が基地に入ろうとすれば身分証明書の提示や許可が求められるが、米兵やその家族が基地から外に出る際に日本側からは何のチェックも受けない。
つまり、米軍基地に到着した米兵は、日本の検疫を受けないままゲートを通過して周辺の町に足を踏み入れることができるのだ。
沖縄の米軍基地に限らず、日本各地にある在日米軍基地でも日々、同様のことが起きているはずだ。
日本政府が米国全土からの入国を拒否する方向で調整に入っていることが3月28日に明らかになったが、基地などの米軍施設に直接到着する米兵については入国審査も検疫も実施できないので、拒否どころか把握することもできない。
これは日本の検疫体制に存在する大きな穴だと言えるだろう。