牧野愛博(まきの・よしひろ) 朝日新聞記者(朝鮮半島・日米関係担当)
1965年生まれ。早稲田大学法学部卒。大阪商船三井船舶(現・商船三井)勤務を経て1991年、朝日新聞入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経験。著書に「絶望の韓国」(文春新書)、「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」(講談社+α新書)、「ルポ金正恩とトランプ」(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
一方、1991年(平成3年)になって天皇訪中の準備が始まった。
当時、外務省アジア局長だった谷野作太郎氏によれば、政官界への事前説明の際、中曽根康弘元首相から「(中国にだけ行って)韓国との関係が持つのか」と尋ねられたという。谷野氏は「日韓関係に強い影響力があった中曽根氏だけに、韓国より先に中国を訪れることを懸念したようだった」と語る。
また、谷野氏は、当時の宮内庁の角谷清式部官長からも「なぜ、韓国を先に訪問しないのか」と強く迫られたという。
しかし、谷野氏は中曽根氏や角谷氏に対して、天皇訪韓の実現は難しいと返答していた。
谷野氏は当時、「ソウル大で日章旗が焼かれたり、デモ隊が町中に出てきたりしたらどうするのかと思った」と語る。谷野氏は角谷氏に対し、「(訪韓の際に混乱が起きて)陛下が動揺されたら、畏れ多いことだ」「全く自信が無い」「陛下が覚悟されているというならまだしも、そういうわけではないでしょう」と答えたという。
その後も、韓国側はたびたび天皇訪韓に関心を示し続けた。