戦略と戦術のミスマッチが目立つ日本。政治的リーダーに不可欠なこととは
2020年04月02日
先般(3月29日)、論座で「公開」した「新型コロナ急拡大で小池都知事の言う『首都封鎖』は本当に必要か」で、ケルマック-マッケンドリックモデル(SIRモデル)によるシミュレーションに基づいて、新型コロナウィルス感染の拡大阻止において重要なのは、一人の患者が治癒するまでに感染させる患者数を示す基礎再生産数R0(もしくは時々刻々の再生産数である実効再生産数Rt)であり、それぞれのR0の値によって、感染拡大の様相がどのように異なるかを述べましたが、本稿ではこれを前提として、今求められる新型コロナウィルス対策について論じたいと思います。
私見になりますが、新型コロナウィルス感染症対策は、戦略目標とするR0の値によって以下の4つに分類できると考えます。
①R0=0(R0=0戦略)
②0<R0<1(R0<1戦略)
③1≦R0<2(R0~1戦略。ただし”2”という数字に大きな意味はない)
④R0≧2(R0≧2戦略。ただし”2”という数字に大きな意味はない)
①の「R0=0戦略」は、いわゆる「封じ込め」であり、「水際対策」を行って患者を見つけ出し、ただちに隔離して誰にも感染させずに、R0=0とすることで感染の収束を図るものです。
②の「R0<1戦略」は、現在多くの国が行っている「ロックダウン」で、R0を1以下に抑え込むことで感染を収束させるものです。R0が1以下になると、新型コロナ患者の治癒期間を20日とすると、(もちろん様々な変数によりますが)おおむね20日間で感染者数は3分の1ほどになり、早期に鎮圧できます。
③の「R0~1戦略」は、おそらく日本が現在、暗黙のうちにとっているもので、R0を急いで1以下にはすることは追求せず、「自粛」や「クラスター対策」でR0をR0~1に保つことで感染拡大の速度を抑え、同時に一定程度の感染の拡大を許容することで免疫を持つ人を増やし、時の経過とともにRtが1を下回ることで感染が鎮圧されるというものです。この戦略は手段としてはマイルドですが、鎮圧までに長い時間を要し、対策を継続できるか否かが鍵となります。
④の「R0≧2戦略」は、一時イギリスが採用すると取りざたされたもので、感染の拡大をあえて放置し、社会全体が「集団免疫」を獲得することで、感染を収束させるものです。当然のことながら、収束までには多くの患者と、相当数の死亡者が生じることになります。
上記の①「Rt=0戦略」、②「Rt<1戦略」、③「Rt~1戦略」、④「Rt≧2戦略」 のいずれを採用するかは、状況と選択の問題ですが、いずれであっても、その戦略が有効に機能するためには、次の三つの条件が極めて重要です。
すなわち、
(1)現在どの戦略をとっているのか組織(政府・自治体)内部で共有されているか、少なくともトップがそれを理解していること、
(2)自らが採用している戦略の下に、個別の戦術が意味を持って位置付けられていること、
(3)自らが採用している戦略のメリットとデメリットを理解し、それを共有すること、
です。
以下それぞれについて解説します。
まず、(1)の、「現在どの戦略をとっているのか組織(政府・自治体)内部で共有されているか、少なくともトップがそれを理解していること」ですが、これがないと、組織(政府・自治体)が実行する対策がちぐはぐなものとなってしまいます。
上記の通り、現在、日本は暗黙のうちに事実上、③の「R0~1戦略」をとっていると思われるのですが、明示されていないので仕方ない面もあるとはいえ、かなり高い確率で、安倍晋三総理と、東京、大阪の二大都市の首長である小池百合子都知事、吉村洋文府知事は、それを十分に理解していないように思われます。
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