コロナ対策協議会に参加できず、こぼれ落ちる「当事者」の声
2020年04月05日
昨年夏の参院選で初当選した、れいわ新選組の木村英子さんが3月19日、緊急に記者会見を開き、「怒りを感じている」などと訴えました。コロナウイルス対策に関する政府・与野党連絡協議会が設けられたのに、小さな会派には声がかからず、参加を申し出ても認められなかったためです。重い障害のある当事者として、何を伝えたかったのか。その思いや、議員活動の成果と壁などを、木村さんに聞きました。上下2回でお伝えします。
木村英子(きむら・えいこ) 参議院議員。1965年、横浜市生まれ。生後8カ月で歩行器ごと玄関から落ち、重い障害を負う。18歳までの大半を施設と養護学校で暮らしたが、19歳の時に東京都国立市で自立生活を開始。全国公的介護保障要求者組合・書記長などを務める。2019年7月の参院選に、れいわ新選組から立候補して初当選。
コロナ対策「私たち抜き」 参政権、れいわ議員の悔しさ:朝日新聞デジタル
「怒り」を訴えたれいわ・木村英子参院議員は何を伝えたかったのか(下)
せっかく私と舩後さん(舩後靖彦参院議員)が、障害のある当事者の代表として議員にならせてもらっているので、直接、当事者の声を届けることを認めていただきたかったということがありまして。「助けてほしい」という訴えが、私の事務所にきているので。
コロナウイルスの感染拡大で、現場ではさまざまな問題が起こっています。
障害をもっている人は、もしコロナウイルスに感染したら、とても重症になる可能性が高い。それなのに、きちんとした防御策が整えられないまま、気管を切開している方のところにヘルパーさんが派遣される例もあります。
ヘルパーが派遣されずに困っている方もいます。ヘルパーさんも「感染するんじゃないか」という不安を抱えているので派遣を断ったりする。たまたま利用者が熱をだした時に「コロナじゃないか」と疑われ、お医者さんにいって風邪だったんだけれども「コロナが陰性じゃないと行きたくない」というヘルパーさんもいます。
ですから、いま地域で障がい者が置かれている現状を伝えたい。感染の防御策についても、舩後さんは気管を切開している方なので、感染防御についてかなり熟知していると思うんです。せっかくそういう当事者が議員なのだから、当事者の意見がプラスされれば、より充実した対策ができるんじゃないでしょうか。
それなのに、なぜ協議会への参加を呼びかけていただけないのか。私たちの意見は採り入れてもらえないのか。「要望はペーパーで出してほしい」という回答でしたが、せめて直接、こちらの意見を聞いてほしかった。
政府・与野党連絡協議会は3月19日に初会合を開催。政府の西村明宏官房副長官ら、与党の自民・公明、野党統一会派の立憲・国民・社民・社保と、共産、日本維新の会の政策責任者が参加した。れいわなどの小さな会派に呼びかけはなく、れいわが参加を求めても認められなかった。れいわは政府に対し、福祉施設や在宅の人工呼吸器利用者に消毒用アルコールやマスクを優先的に支給する▼体調が悪い介護者や障がい者が優先的にPCR検査を受けられるようにする▼ヘルパー不足に対する緊急対応策を打ち出す▼電話での相談が困難な障がい者もいるため、相談窓口や保健所、医療機関の連絡先にファクス番号やメールアドレスを記載する――などの要望を提出した。
――木村さんは会見で、協議会への参加を認めないのは「障がい者差別にあたるのかなと感じた」と言っていました。命にかかわる問題なのに、当事者の声を聞かないのは、障害のある人の命を軽んじているということですか?
そういうことだけではなく、たとえば地域の障害福祉計画とか、障がい者の政策が話される場所に、なかなか当事者を入れてもらえない現状があります。健常者や専門家だけで会議を開くことによって、「どうしてもこの政策、このケアが必要なんだ」という当事者の声が反映されず、自分が受けたら困るような政策になることもある。障がい者が差別されることなく、自分の意見を言える場所が保障されていないのです。
障害のある人たちは、日々の生活でも、自分たちに関する政策についても、「健常者」が決めたことを受け入れるしかない状況にしばしば追い込まれる。このため、「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」を合言葉に、障がい者運動を繰り広げてきた。
私を推してくれた方に申し訳ないという思いもありました。私も立候補する時、自分の体のことを考えて、命を覚悟していたところがある。でもそこには「やっと当事者が国会に入った。やっと自分たちの声を伝えることができるんだ」と思った大勢の支援者の人たちの気持ちがあったので、私はその代表として言わなければならないという気持ちがすごくありました。私がというより、私をふくめて多くの障がい者の人たちの伝えたいものを拒絶されたような気がしたので、「差別を感じた」という表現になったんだと思います。
今回のコロナの件もそうですけど、一つひとつ壁が立ちはだかっていく、配慮や優しさを感じられない社会は悲しいなと思いますね。私たちは、小さい差別から大きいところまで、日常的に差別にさらされて生きているので。私が議員になったのは、差別されたくない、差別を一つひとつ解消していきたいという理由でなったこともありますから。
――差別する側には、差別しているという認識もないのかもしれませんね。私自身もそうですが、障害のある方とあまり接してこなかったので、こう言ったらどう感じるのかとか、肌感覚でわからない。
障害のある人とない人が分けられていることは大きな問題です。健常者だったら拒絶されないけれど、障害があるというだけで、だめだと言われることがたくさんある。ふつうに遊びにいきたいのに、新幹線に乗れなかったり、お店に入店を拒否されたり。楽しい思いをするために行っているのに、すごく不快な思い、悲しい思いをさせられて帰ってくることは日々あるので。楽しいと思える日常であってほしい。それだけですね。
――この間の議員活動の中で、成果を得てきた部分もあると思います。こういう成果があり、こういう壁にぶつかったとか、振り返ってみていかがですか。
国土交通省に関しては、新幹線のバリアフリーの問題で、車いすスペースの課題について指摘したら、赤羽大臣(赤羽一嘉国土交通相)が迅速に動いてくださいました。赤羽さんがずっとバリアフリーにとりくんできたので迅速に進んだのだと思いますが、それでも当事者が声を上げなければ、問題として上がってこなかったわけですから、そういう意味では、とても大きな成果かなと思っています。
木村議員は参議院国土交通委員会で、新幹線の車いすスペースについて、障害のある人が優先的に予約できるのは前日までであることなど、使いづらさを指摘。赤羽国土交通相の指示で、障害のある人も交えた検討会が設けられ、改善の基本方針がまとまった。
課題が多すぎて、私は正直いって、自分たちの現状を伝えていくのでせいいっぱいで。コロナのこともふくめて、伝えることも断られたりするじゃないですか。「あ、伝えるのもこんなにたいへんなんだ」というのが実感ですね。
――ある程度理解が進まないと、聞く耳ももってもらえないということでしょうか。
あと、議員さんやまわり人とのコミュニケーションが難しいですね。やっぱり私は、社会常識を踏まえた言葉のやりとりをしてくることができなかったので、本音と建前とか、そういう使い分けがよくわからない。どういう意味なのか、どう受け止めたらいいのか、わからない時がありますね。
木村英子参院議員インタビューの(下)は、「『国難』の時、あからさまになる『隠されている問題』」について。4月5日夕、配信の予定です。
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