「国難」の時、あからさまになる「隠されている問題」
2020年04月05日
障害のある人もない人も、同じように社会に参加できるよう、壁を壊そう。差別をなくそう。そのために、木村英子参議院議員は障害のある当事者の声を、政治に反映させようとしています。しかし、壁を壊そうとする木村さん自身、さまざまな壁に囲まれています。その壁は何か。どうやって壊していくのか。木村さんのインタビューの(下)です。
木村英子(きむら・えいこ) 参議院議員。1965年、横浜市生まれ。生後8カ月で歩行器ごと玄関から落ち、重い障害を負う。18歳までの大半を施設と養護学校で暮らしたが、19歳の時に東京都国立市で自立生活を開始。全国公的介護保障要求者組合・書記長などを務める。2019年7月の参院選に、れいわ新選組から立候補して初当選。
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――木村さん、舩後靖彦さんのおふたりは、社会保障にかかわる政策を所管する厚生労働委員会には入れず、国土交通や文教科学委員会に所属しています。これも、国会でつきあたった壁のひとつなのでは。
それは大きな壁ですね。
――重い障害のある人を対象とした「重度訪問介護」のサービスを使えるのは私生活に限られ、仕事をする時などは対象外になっています。木村さんはこの制限をなくし、介護を必要とするすべての障害のある人が、社会に参加できるようにすべきだと唱えてきました。この問題でも、満足のいく成果は出ていないとお考えですか。
重い障害のある人たちにとって、健常者と同じように当たり前に生きていくために、いちばん何が必要かというと介護なんです。ところが、私たちが国会議員になって登院する時、国会活動中は重度訪問介護を使えないという壁が立ちはだかりました。もし舩後さんや私が国会議員にならなければ、この問題は闇に葬られていたと思うと、おそろしいなという感覚を抱きましたね。
木村さんと舩後さんの国会活動中の介護費用は、当面の措置として、参議院が負担している。2人の問題提起をきっかけに、重い障害のある人の就労支援策を検討している厚生労働省は、重度訪問介護の見直しを先送りし、介助者を用意した企業への助成金拡充などで対応する案を労働政策審議会に示した。
重度訪問介護を使えない根拠は、厚生労働省の告示523号です。仕事などの「経済活動に係る外出」や、通学などの「通年かつ長期にわたる外出」、さらに「社会通念上適当でない外出」を除くと記されています。
その523号の解釈が、自治体によって違うんです。たとえば、飲酒を伴う外出や、政治活動などを「社会通念上適当でない外出」だといって認めず、週2回以上の習い事もだめだという自治体もあって、さまざまな制限がされている。解釈が違うことによって、障がい者の行動が制限され、人権が奪われている現状があります。
現状を変えないと、障がい者が健常者と同じように社会参加するのは難しい。だから、やっぱり厚生労働委員会に入って、重度訪問介護を、人権を守る制度として確立しなきゃいけない。けれど、厚労委員会には入れないし、私たちもたった2人の会派ですので、なかなか難しい。いろんな党や会派の人たちが一緒になって、改善していただけたらありがたいと思います。
――昨年の参院選では、得票にかかわらず優先的に当選できる「特定枠」を利用して、議席を得ました。
社会参加が難しい人が国会議員になるのは、特定枠を使わないと実現できないことですね。
――特定枠がなければ、自分で票を集めなければならないわけですが、重度訪問介護が政治活動・選挙運動に使えないと、それも難しい。社会参加の壁は、政治参加の壁になるということですね。
極論すれば、重度訪問介護を使っている障がい者は選挙運動をしてはいけないということになる。それは遅れている考え方じゃないかと思うんですよね。
――遅れているだけではなく、福祉が切り詰められていく中で、より厳しくなっているという感覚をお持ちですか。障がい者総合支援法には、障害のある人も介護保険を優先して利用する原則が記され、障害のある人の介護保障と、高齢者向けの介護保険を統合していこうという動きがありますが。
そうですね。社会参加を促進しなければならない障がい者や児童に対するケアと、高齢者の方たちが老後を過ごすためのケアはまた全然違うと思うんです。独立している制度が一つにされてしまったら、それぞれのニーズにあった福祉はできなくなりますよね。それを強引に一緒にしちゃおうとしているので、かなり混乱が起きています。それこそ、高齢の障がい者が介護保険を利用することになって、社会参加を制限されるだとか。そういう流れの大きな理由は、予算の削減だと思います。
――福祉が切り詰められて、社会参加を制限され、生きていくことが難しくなる人もいる。それをなんとかしたいということも、立候補の理由だったのでしょうか。
そうですね。自治体によっては介護時間が足りず、1日に1回しか食事を食べられなかったり、トイレも我慢したりする状況がありますから。私たちの現状を聞いてもらって、先輩の議員のみなさんにアドバイスをいただき、一緒にいい方法を見つけていけたらいいなと思っていたんです。でも、それ以前に協議会への呼びかけもいただけないのはどういうことなのかなと思って、ああいう記者会見をさせてもらったんです。
――それでも、昔に比べればよくなっているのでしょうか。
昔はいまよりも介護制度は整っていなかったので。毎日、いろんな大学に介護者を探しにいって、夕方、学生と駅で待ち合わせをして、そこから私の生活がスタートするような感じでした。いろんな大学生がきてくれて、彼女たちがいたから生きてこられたと思っています。
いまは、まだ少ないけれど制度的には24時間介護が認められている自治体もありますし、介護内容についても、だいぶ進んできたとは思いますが、それでもまだまだ。制度が充実すればするほど中身の規制が厳しくなって、自由度がなくなるということもありますね。お金で換算するから、なんでもかんでもというわけにはいかないという問題があるのでしょうけど、523号みたいに人としての行動を制限すると人権に触れます。それが生きていく弊害になっている現実があるので、人権の制限はあってはならないと思いますね。
重い障害のある人を対象にした介護保障は、1970年代に施設での虐待や非人間的な扱いに抗議する障害のある人たちが都庁前に座り込み、地域で生きるための介護を求めて運動したことに始まり、現在の国の制度になっていった。
――憲法は参政権を保障しています。けれど、実際に参政権を行使しようとすると、多くの壁につきあたります。みんなが政治に参加していける仕組みをつくらないと、国民主権はお題目になってしまいます。
まさにその通りだと思います。やっぱり、どんな人でも国民の一人として認められることが大事だと思うんですよね。生きることもそうだし、選挙権もそう。介護を必要とする障がい者にとって、参政権があったって、だれかの手を介さないと実現できない。投票に行きたくても、介護の手がなくていけない人は多くいると思います。政治に参加したい人たちの権利を保障するためにも、障害をもっている人たちの当たり前の生存権みたいなものを、きちっと保障できる法制度が確立されないといけない。そうでないと平等にはなれない。
明らかにいまは平等ではないですから。もし平等な社会だったら、もっともっと障がい者が政治に参加しているでしょう。そこには「生産性のない人」を排除する構造があるのではないかと、日々実感しているところです。
――他国の例をみると、投票所にいけない人のもとに投票箱が回ってくる国もあります。それは障害のある人にも、高齢で外出が難しい人にもとても役に立つ。日本のいまの仕組みは、一人ひとりの権利を保障し、主権者として扱う仕組みになっていないと思います。
日本では、どちらかというと大多数の意見を優先し、障害をもっている人のような少数の意見は反映されにくいので、その政策が後回しになるところがありますよね。「障害をもっている人は家族が補うものだ」と家族主義になり、一人ひとりの人権の保障がおろそかになっていく。一人の国民として認め、きっちりとしたケアをしないと、置き去りにされてしまう存在が増えていきますよね。そうであってはならないと思う。
――とくに今回のコロナウイルスの感染拡大のような、みんなの命がかかっている局面では、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」じゃありませんが、どうしても「自分第一」になって、数の少ない側が後回しにされやすい。いろんな人の命に配慮できなくなる。いま、私たちが試されている局面なのかなという気がしています。
その通りだと思います。国難みたいなことになると、日ごろ隠されている問題があからさまになるという実感がありますね。
――ご自身の議員活動を通じて、どんな社会をつくりたいと思っているのか、改めてうかがえますか。
障害をもつ人ともっていない人を、小さい時から分けないでほしいなと思います。津久井やまゆり園の事件がありましたが、施設に勤めて初めて大勢の障がい者の人をみた人が、限られた人数で大勢の方を日常的に介護をするなんて、私からみたらありえない。社会とは隔離された閉鎖的な世界だけになると、ああいう悲惨な事件が起こってしまう。やっぱり、小さな時から分けないことが大事です。同じ地域に住んで、ふつうに一緒に学校に行ったり、一緒に働いたりできる環境がつくられ、差別されない社会になったらいいなと思っています。
――そのためには政治の場でも、差別されない環境をつくらないと、当事者の声が伝わらないことになると。
国会でも平等に扱っていただきたいと思いますね。
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