イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く
2020年04月05日
イタリアで起きている新型コロナウイルスによる「医療崩壊」は、その遠因に大幅な病床削減、不足する看護師、少ないCT(コンピュータ断層撮影)の3要素が影響している可能性が浮かび上がりました。医療政策を研究する山梨県立大学の石垣千秋准教授が、多くの死者を出しているイタリアやスペイン、EUを離脱したばかりのイギリスを中心に比較検討しました。
1回目はイタリアの医療崩壊に与えた医療制度について分析しました。約7800人の医療従事者が感染し、うち約4000人が看護師です。「緊急事態宣言」が取りざたされている日本ですが、日本人はロックダウン(都市封鎖)に目が向きすぎているかもしれません。(「論座」編集部)
2020年1月23日、中国湖北省の武漢が封鎖された。少し前から報道されていた「新型肺炎」の蔓延によるものだ。その映像を見ても、日本人の多くは「日本ではこんなことは起こらない」と思っただろう。ましてやヨーロッパやアメリカの人にとっては、遠いアジアの一角で起きた「対岸の火」に過ぎなかっただろう。
ところが、3月12日にはWHO(世界保健機関)が「パンデミック」を宣言、2カ月あまりが過ぎた現在、イタリア、スペインで中国の公表死亡者数を上回り、フランスやアメリカのニューヨーク市では都市封鎖(ロックダウン)が行われている。東京都の小池百合子知事も「ロックダウン」の可能性に言及しながら外出自粛要請を続けている。
【世界各国の感染状況】
「Covid-19」と名付けられた新型コロナウイルスは、これから徐々に特性が明らかにされていくと思われる。現時点では感染の有無を判断するPCR検査の実施方法や、コミュニケーションの習慣の違いなどで、国ごとの感染拡大の規模やスピードの違いが説明されてきているが、実際には人口の高齢化の状況や医療へのアクセス、緊急時の政治など複雑な要因が絡みあっているはずだ。
こうした点はいずれある程度安全な状況になってから十分に検証される必要がある。今後、検討されるべき事柄の一つに医療制度の違いもあるだろう。ヨーロッパ、アメリカの医療制度が日本の制度と違い、日本人のイメージと最もかけ離れていると思われるのは、ヨーロッパ、アメリカの病院が(救急やごく一部の例外を除き)平時は外来診療を行っていないことである。
ヨーロッパの医療制度は大きく分けると、保険財源の面から二つに分けることができる。一つはドイツのビスマルクに由来する「ビスマルク式」で、社会保険を中心とした財源となっている。社会保険は、保険団体を企業や職能団体、地域別に構成することが多く、そこへの加入を国家が義務付けることによって公的制度としている。ビスマルク式では、負担と供給の関係が比較的明確である一方、国民皆保険を達成するのが困難で、保険者によって受益に違いが生じてしまうなどの問題がある。
もう一つはイギリスで第二次世界大戦の終了間際に発表された「ベヴァリッジ報告」に由来する「ベヴァリッジ式」で、税を主な財源として普遍的にサービスを提供する方式である。誰にでも普遍的にアクセスが保障される一方、税収とのバランスを考慮しながら抑制策も取られやすい。
現在、Covid-19で話題となっている国の医療制度を方式の違いを中心に整理すると次の通りになる。
ドイツ、フランスは日本と同様の社会保険の国であり、イギリス、イタリア、スペインが税による医療制度の国である。ほかに北欧諸国の税を財源とした医療制度である。
【財源による各国の保険制度の違い】
日本人は「欧米」と一言でまとめることが多いが、アメリカとヨーロッパにはかなり文化や慣習の違いがある上、ヨーロッパの中でも国ごと、また同じ国の中でも地域ごとに相当大きな違いがある。
EU(欧州連合)が作成した所得地図(EU加盟国の平均購買力を100とした場合の地域ごとの数値)をみると、イタリア北部は裕福なのに対し、南部は貧しく、またスペインの南部、ポルトガルもイタリア南部とほぼ同等の経済水準であることがわかる。また、フランスもパリ周辺とそれ以外の地域に所得格差があることがわかる。※Eurostat:https://ec.europa.eu/eurostat/documents/7116161/7602830/0601EN.pdf
一方、住民の年齢分布(地域住民の中央値)でみると、イタリア北部やポルトガルは年齢層が高く、フランスの西部や旧東ドイツ地域の年齢が高いことがわかる。一口に「欧州」と言っても国、そして同じ国内の地域によって格差がある。※Eurostat:https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=File:Median_age_of_population,_2018_(years,_by_NUTS_3_regions)_RYB19.png
こうした地域差と医療制度が今回の感染拡大の動向にも影響していると考えられる。
各国のGDP(国内総生産)に占める医療費の割合(%)をみると、アメリカが16.9%と飛び抜けて高く、ドイツ、フランスが11.2%、日本が10.9%、イギリスが9.8%であり、イタリア、スペインはOECD平均の8.8%とほぼ同じ割合である。
【GDPに占める医療費の割合】
一方、医療の提供体制についてみると、日本は人口千人当たりの病床(ベッド)数が13.1床と諸外国よりも多いほか、CTの保有台数が11.5台と飛びぬけて多くなっている。
(編集部注:Covid-19の診断では、PCR検査が注目されているが、肺炎の診断をする際、一般には臨床症状に加え、レントゲン撮影で行われる。しかし、日本でも報告されているが、レントゲンでは肺炎症状が見つからず、CTで初期の肺炎が見つかるケースがある。治療薬がない中、抵抗力の弱い人の場合、ウイルスの増殖が激しく急激に悪化する場合があるので、早期発見し対症療法に結びつけることが重要とされている)
また度々話題になる医師数は、OECD諸国の平均が人口千人当たり3.5人であるのに対し、日本は2.4人となっている。
人口千人あたりの病床数は、
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