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新型コロナ危機にトランプ流危機管理は「勝利」できるか

専門家との静かな暗闘、アメリカ・ファーストの呪縛、エゴの功罪……

沢村亙 朝日新聞論説委員

トランプ大統領が専門家を嫌う理由

 そもそもトランプ氏は大の専門家(エキスパート)嫌いでも知られる。「専門家」の定義には、科学者だけでなく、法律家、捜査機関や情報部門、外交官をはじめとするキャリア官僚、加えて専門家と同じように「ファクト」を重視するジャーナリストも含まれる。

 理由のひとつは、グローバル化がもたらす様々なひずみにあえぐ米国民が増えているなか、米国の統治を引っ張ってきたこれらの専門家に「エスタブリッシュメント(主流派)」のレッテルを貼って攻撃すれば、それによって留飲を下げる一定層から強固な支持を得られることを、トランプ氏は知っているからである。

 もう一つの理由が、「専門家に痛めつけられてきた」というトランプ氏自身の根強い被害者意識だ。不動産ディベロッパーとして数々の訴訟で法律家を相手に闘い、大統領選では政界アウトサイダーとして主流派と闘い、就任後は温暖化対策のパリ協定からの離脱、保護主義的な通商政策、同盟軽視など数々の政策をめぐり、これらに異を唱える科学や通商、軍事・安全保障の専門家と熾烈に闘い抜いてきたとの思いがある。

 そして極めつきが、ロシア疑惑やウクライナ疑惑だった。自らの政敵を追い落とす政治目的を遂行するために、トランプ氏が外交に介入するなどしたり、「法の支配」をゆがめたりしたかどうかが問われた疑惑だったが、トランプ氏は「捜査機関や外交当局をはじめとするディープステート(影の政府)が、自分を追い落とそうとする策略」という陰謀論に読み替えた。

 これらの“専門家との闘い”に、トランプ氏は「勝利」を収め続けてきた。大方の予想に反して大統領選に勝ち、強固なコア支持層を武器に共和党を自らに忠実な「トランプ党」に作り替え、弾劾(だんがい)裁判では有罪を免れた。米国経済は好調で、外交や安保でもさしたる破綻(はたん)は起きなかった。

 直感に基づく政治スタイルにより自信を深め、「専門家たたき」こそが身を守るための危機管理策と思い至ったとしてもなんら不思議ではない。

世論結果をみて自粛継続に同意

 新型コロナウイルスの問題も、トランプ氏とその周囲は当初、「自身を陥れようとする策謀」と見なし、事態の深刻さを直視していなかったようだ。2月早々に中国からの入国制限をとったものの、集会の自粛要請など国内措置はそれから1カ月近く遅れた。

 さらに感染者が増え続ける状況にあっても、トランプ氏の関心はむしろ米経済の急減速にどう手を打つかにあった。「(感染拡大防止の)対策が、問題そのものよりも有害になってはならない」とツイート。記者会見でも「決定を医者たちに完全に任せてしまうのは誤りだ」と、折に触れて専門家への不信感を漏らした。

 このままでは、感染対策は二の次にして経済活動再開を優先してしまうのではないか。そんな危機感に駆られたファウチ氏らは

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筆者

沢村亙

沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞論説委員

1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェロー、アメリカ総局長などを経て、現在は論説委員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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