野党は今こそ「もう一つの自民党」でなく「別の世界」を示せ/中島岳志×若松英輔×保坂展人
緊急事態宣言が出され自粛圧力が強まる今、いまいちど考えてほしいこと(下)
中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授
いのちを生かす「グリーンインフラ」を整備しよう
中島岳志・東工大教授 保坂さんも区長メッセージの中で、社会保険労務士による臨時労働電話相談、金利と信用保証料を区が全額負担する形での500万円の融資制度などの取り組みを発表されていましたが、今後そうした具体的な支援が早急に必要だと思います。
さらに、そこからもう一つ考えたいのは、今回の危機を一つのきっかけとして、お金の回し方自体の転換も考えていくべきなのではないかということです。
不況の際には、公共工事を増やすなどの形で経済の活性化が図られるわけですが、そのときにお金をどこに、どのように使っていくか。それが次の時代の都市のあり方をつくっていくことになる。保坂さんがずっと取り組んでこられた「グリーンインフラ」がその象徴だと思います。
保坂 これまで日本においては、大不況などによる失業対策事業の大半がハード型の公共事業によって行われてきました。ダム造成や道路整備などの公共工事ですね。
しかし、特に東京においては、そうしたハード型の公共事業のニーズはそこまで多くなくなっています。同時に、コンクリートに頼りすぎてきたがゆえに、東京は大変水に対して弱い街になってしまった。
それが顕著に表れたのが、昨年10月の台風19号における多摩川の氾濫です。あれは、単に多摩川の水があふれたというだけのものではありません。街がコンクリートで覆われているために、増水して水位があがった川に雨水が流れ込むことができず、押し返されて周辺にあふれ返ってしまったんですね。
こういうことが起こらないように、自然の脅威と力で対決するのではなく自然の力で受けとめるのが「グリーンインフラ」の考え方です。植物や土壌そのものの力を生かして雨水の流出を抑制し、地下水を涵養していく。コンクリート塀を生け垣にするといった小さな工事から、一戸建ての住宅や共同アパートの屋上に雨水を蓄えておける設備をつくる、駐車場のアスファルトを剥がして芝生にするなど、さまざまな技術が今、世界中で開発されています。
豪雨による被害を最小化するとともに、街の中の緑を増やしていく。それによって大小さまざまな規模の雇用が生まれる。まさに、21世紀型の公共事業といえると思います。住宅への雨水貯留槽の設置、公園の雨庭化、道路や歩道・街路樹周辺の改修、大型建造物の新設・改修等の事業が必要となります。
若松 コンクリートのインフラからグリーンインフラへの転換は、保坂さんの政治的ライフワークだといってよいのだと思います。しかし、実は世田谷区政において、保坂さんは「グリーン」だけではなく、もう一つのインフラもつくってこられたのではないかという気がしています。それが「いのちのインフラ」です。
今まで私たちは、インフラというと目に見える、手でさわれるものばかりを考えてきました。けれど、実はそれ以外にも、目に見えない「インフラ」──たとえば先ほどお話しいただいたような、孤立を防ぐための人と人とのつながりがなければ、我々の生活は成り立たない。それは「いのちのインフラ」と呼ぶべきものとだと思うのです。
グリーン(緑)は、生命/いのちの象徴ですから、これからの「グリーンインフラ」は、ただ緑を増やす、自然の力を利用するというだけではなく、「すべてのいのち」を守るための、目に見えない面も含めたインフラである、そんな気がしています。

若松英輔・東工大教授