新型コロナ対策でアフリカ支援 日本政府は確実に進めよ
東京五輪・パラリンピックの「完全な形」での開催の鍵はアフリカの存在
鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授
米国ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターが毎日更新している、世界各国の新型コロナウイルスの感染状況を示す地図を見ていると、あることに気が付く。
感染者数を示す赤い円によって米国全土や西欧から中欧がほぼ埋め尽くされているのに対し、アフリカ諸国の円は小さい。もちろん、4月11日の時点で、南アフリカで2003人、エジプトで1794人、アルジェリアで1761人など、一定の感染者数は確認されている。しかし、アフリカ大陸全体としては、現時点で米国やヨーロッパ、東アジアのような感染の拡大は認められていない。
ただ、裏を返せば、この数字はアフリカ各国の検査の体制が十分ではないこと、今後感染の拡大が進む可能性があることを示唆しているとも言える。そして、ひとたびアフリカ諸国で感染が拡大すれば、来夏に延期された東京オリンピック・パラリンピックを「完全な形で実施する」という安倍晋三首相の希望が頓挫することになりかねない。

米国ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターが毎日更新する世界各国の新型コロナウイルスの感染状況を示す地図(Johns Hopkins Coronavirus Resource Centerのサイトから)
欧米諸国が想起した「エボラ出血熱の成功」
「アフリカと感染症」と聞いて思い出されるのは、2014年にギニア、リベリア、シエラレオネなどの西アフリカを中心に発生したエボラ出血熱だ。2016年にいったん終息が確認されたが、2018年にコンゴ民主共和国を発生地として再び、集団感染が起きている。そして、見逃されがちだが、今月中に終息が宣言される予定である。
新型コロナウイルスの感染拡大と、エボラ出血熱との間には、一見すると関連がないように思われるかもしれない。だが、ドナルド・トランプ米大統領が自らのTwitterで「見えない敵」(Invisible Enemy)と表現、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「新型コロナウイルスとの戦争状態にある」と演説するなど、欧米各国の首脳が「新型コロナウイルス問題」を「戦争」と表現する背景には、エボラ出血熱に対する欧米諸国の対応の経験があるとみられる。
エボラ出血熱に対し、感染発生地のシエラレオネを英連邦の一員に抱える英国は、米仏などと連携し、救護活動担当する国を振り分け、患者の治療を行った。各国が連携してエボラ出血熱の封じ込める姿は、保健衛生の分野における「集団的安全保障」ともいえるものだった。
英国では現地で看護活動に従事していた英国人男性がエボラ出血熱に感染すると、デヴィッド・キャメロン首相(当時)が空軍の輸送機で男性を本国に搬送。男性は国民保健サービス(NHS)傘下の病院で治療を受け、シエラレオネで医療活動に復帰した。また、キャメロン政権はロンドン市内の検疫強化や治療体制の整備などをおこなうなど、“後方支援”を強化した。
エボラ出血熱を克服したこうした“成功体験”を、新型コロナウイルスに対しても再現できないか。欧米首相の発言からは、そうした思いが透けてみえるのである。