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韓国的新型コロナ対策――監視と感染抑止のジレンマ

日本でもできること、できないこと

伊東順子 フリーライター・翻訳業

白服に制圧される街、地下にもぐる人々

 2月末、韓国南部の大邱市で起きた新興宗教団体での集団感染は、それまでスマートな対応を見せてきた韓国政府・疾病管理本部を大混乱に陥れた。

 「あの31番患者が原因なのよね」

 当時の韓国ではそう言われもしたが、それは確定診断の結果の順番にすぎず、31番、33番、34番、35番……と続く「確定診断者」(確診者、日本でいう「感染者」)のほとんどが新天地イエス教大邱教会の信者たちだった。人口250万の都市に連日100人、200人と新規の「確診者」が発生した。病院はどこもパンク状態となり、あわや医療崩壊とまでいわれた。

 そこから危機を脱するまでの10日の間、政府は大きなルール変更を行った。病院とは別の隔離施設(生活治療センター)を開設し、軽症者はそちらで管理することで病床を確保した。また屋外テントなどを利用しての外来の分離、さらに医療従事者と患者の双方を感染から守るための「ドライブスルー検査」も世界に先駆けて実施された。

 「スピード」が医療崩壊を食い止めた。

ソウル市のエイチプラス・ヤンジ病院が、新型コロナウイルス検査のために開発した専用ブース=同病院提供 20200316拡大ソウル市のエイチプラス・ヤンジ病院が、新型コロナウイルス検査のために開発した専用ブース=2020年3月16日、同病院提供

 政府当局と医療関係者が奮闘する一方で、一般の人々は恐怖した。集団感染の現場となった新興宗教団体は、韓国で暮らしていれば誰もが一度は聞いたことがある団体で、若い信者も多い。新天地の教会は全国にあり、それは感染の全国拡大を意味するかもしれないと思ったのだ。

 ところで、私が「怖い」と思ったのは、それとは全く別の理由だった。

 それは2月下旬に韓国人がツイッターにアップした動画だった。釜山にあるチムジルバン(韓国式サウナ)の休憩室、いきなり入ってきた白い防護服の男に、くつろいでいた人々は凍りついた。

 実は大邱市の新興宗教団体関係の「確診者」の1人は中国から来た信者で、このチムジルバンに泊まっていた。そこでここが防疫の対象となったのだ。韓国のチムジルバンは24時間営業のため、終電後の宿泊や休憩に利用されることも多い。

 「これ、仕事サボっている営業さんとかもいたよね」

 「みんなチムジル服のまま、隔離されちゃったのかな?」

 前回も書いたように、今回の新型コロナ対策において、韓国政府の方針は「徹底的な情報公開」だった。そこで感染の確定診断をうけた人々の動線は全て、細かく公開されるのが原則だ。名前こそ伏せられ、代わりに通し番号での公開だったが、それでも家族や同僚など身近な人はそれが誰だが知っている。

 「◯番患者さんは、何時にどの地下鉄に乗って、どこで何を食べて、どこで買い物をして……」

 「買い物した後で、そのまま家に帰ったのですか?」

 「そこは、現在確認中です」

 まだ確診者が少なかった初期の段階では、疾病管理本部は記者会見で細かく質問に答えていた。それが31番患者(つまり大邱市での集団感染)以降は、ホームページでの発表に切り替わった。ただ、その詳細さについては、4月3日に確診者が全国で1万人を超えた現在も同じだ。ひとりひとりの動線の細かい確認と公開は続いている。

 それは地域ごとの検索も可能であり、たとえば◯◯市◯◯区をクリックすれば、自分のエリア近くの確診者の動きが確認できる。立ち寄った食堂やスーパーなども「◯月◯日に確診者が立ち寄り、その後の店舗は休業措置。消毒作業などを済ませた後、◯月◯日に再オープン」といった具合だ。ちなみに、先のチムジルパンを利用した人は「釜山7番患者」として検索が可能だ。

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

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