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北極海をめぐるいま ロシアの戦略と出遅れる日本

軍事・外交・経済で高まる戦略的重要性

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年3月5日、プーチン大統領は同日付の大統領令によって「2035年までの期間における北極でのロシア連邦の国家政策の基礎」を承認した。

 これにより、ロシアは北極海や北極海航路の開発・利用を軍事・外交・経済などの面から自国の国家戦略のなかに位置づけようとしている。同じく、米中も北極の重要性によく気づいている。半面、日本政府は目先の関心はあっても、長期的戦略を描いているようには思えない。

温暖化で高まる北極圏の地政学的価値

拡大グリーンランド西部のイルリサット近辺の海 Shutterstock.com

 2019年4月、ウラジーミル・イワノフらロシア人科学者は学術誌『アトモスフィア』に「2010年代の北極海の氷の減少」と題する論文を公表した。東経60~120度、北緯65~80度のロシア側と、同じ北緯にあるアメリカ側における2007~2017年の8~10月、12~2月の平均海氷面積の程度を比較し、ロシア側の北極圏が米側よりも早く溶けるメカニズムを明らかにしている。

 その証拠なのか、2019年夏に北極海にあるノーヴァヤゼムリャ島の近くで新たな島が発見され、11月に海軍が探査し、公式に5島が認定された。ロシア地理協会によると、2015~2018年に30以上の島・岬・湾が発見されており、最大の島の面積は5万4500㎡で、サッカー場7面分ほどになる。

 北極海の氷が夏に完全に溶けて北極経由で太平洋と大西洋が結ばれるようになると、東南アジアと英国を結ぶ航海日数は北極海ルートの利用でスエズ運河利用ルートよりも10日から12日程度短縮される。英国政府の要請で2017年にまとめられた報告書によると、ロシアの北極海に面したサベッタ港から中国に液化天然ガス(LNG)を北極海航路(ロシア語で北方海洋航路[Northern Sea Route, NSR])経由で夏に輸送すれば、18日かかるが、冬にスエズ経由で運ぶと53日にかかるという。

 つまり、北極海の氷がなくなれば、少なくとも海上輸送上、北極圏の重要性は増大する。加えて、資源開発が比較的安いコストで可能になるから、北極海での石油ガスなどの資源開発も活発化するだろう。いわば、北極圏の地政学的価値が高まるのである。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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