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感染者の1割死亡のスペイン 医学生・看護学生、退職者を動員し出口探る

イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く

石垣千秋 山梨県立大学准教授

 スペインは新型コロナウイルスの対処に失敗し、WHO(世界保健機関)のデータでは、ヨーロッパでイタリアについで死亡者が多く、感染者に対する死亡者の割合は約10%と高い数値を示しています。「医療崩壊」を立て直そうと、中央政府が医学生や看護補助者に臨時的に資格を与え、70歳以下のリタイアした医師や看護師に現場復帰を求めるなど、医療従事者確保を積極的に行っています。
 医療制度をみると、人口に比べて少ない看護師数、日本と違いまずGPや看護師が一時対応し、必要があれば病院や専門診療科へ紹介する診療スタイルです。オーバーシュート(爆発的感染拡大)の遠因になった可能性があるかもしれません。自治州の権限が強いスペインは、中央政府の保健相に権限を集中させて切り抜けようとしていますが、「緊急事態宣言」を出した日本の特措法は都道府県知事に具体的な施策を委ねている点が対照的です。
 「医療崩壊」を防ぐためにも、現場を持たない医師や看護師らの招集などについて日本も見習うべき点があると思います。(「論座」編集部)

首都マドリードに死亡者の6割が集中

 スペイン政府の発表によると、4月9日現在、新型コロナウイルス(Covid-19)による感染者が14万人を超え、死亡者が約1万4千人に達した。首都マドリード市に死亡者の6割が集中していると言われ、3月24日から葬儀が感染源になるのを避けるため、火葬や埋葬を停止しており、市内のスケート場などが遺体安置所にされる衝撃的な映像も日本で紹介された。

※Statista(州ごとの感染者数)https://www.statista.com/statistics/1102882/cases-of-coronavirus-confirmed-in-spain-in-2020-by-region/

感染者の1割死亡のスペイン拡大2020年4月2日、スペインのバルセロナにある葬儀場の地下駐車場には、新型コロナウイルスで亡くなった人たちの遺体が収められた多くの棺が埋葬や火葬を待つため保管されていた=AP

 スペインもイタリアと同様、ビスマルク式(社会保険)の医療制度からベヴァリッジ式(税)の医療制度へと転換した国である。ここでは、WHO欧州事務局のレポートやOECDのデータをもとに、スペインの医療制度から新型コロナウイルスのオーバーシュート(爆発的感染拡大)に焦点をあててみたい。

感染者の1割死亡のスペイン拡大

 スペインでは、第二次世界大戦中の1939年に政権を樹立したF.フランコ将軍が、大戦後も国家元首の地位にとどまり、強固な中央集国家だった。しかし、1975年にフランコ将軍が死去し、1978年には憲法が改正され、議会君主制を維持しながらも17の自治州に権限が大幅に委譲する「自治州国家」となった。バスクやカタルーニャは独自の言語と歴史があり、スペインからの分離・独立を求める動きがある。日本の約1.3倍の国土で、人口は約4770万人、うち約485万人が外国人である。

 地域による経済格差は大きく、EUが作成した所得地図(Eurostat)みると、首都マドリードやカタルーニャ州(州都バルセロナ)が比較的裕福なのに対し、南部は比較的貧しい地域である。
※Eurostat https://ec.europa.eu/eurostat/documents/7116161/7602830/0601EN.pdf

日本と違いGPが病院入院や専門的な外来医療を紹介

 フランコ政権下でもドイツの影響を受けて福祉国家の建設は進められていたが、他のビスマルク式福祉国家と比較するとその発展は遅れていた。独裁政権下にあったために職能団体の力は弱く、社会保険によって医療が提供されていた当時でも、医師は給与制で報酬を得ていた。

 憲法改正の後、1986年に保健法が制定され、ベヴァリッジ式の国民保健サービス(Sitema Nacional de Salud、英語ではSNSという略称)が創設された。制度の転換にあたって、イギリスのように職能団体と政治家との駆け引きはなく、比較的スムーズに移行がなされた。現在も医療従事者は給与制、医療機関は予算制で運営されている。

 イギリスの国民保健サービス(NHS)と同様、普遍性、平等、公正を原則としているが、財源となる税は国税と地方税(州)からなり、州がサービス提供の責任を持つ。2008年のリーマンショックの後、財源は2009年に国税に統一され、薬剤を中心に患者の自己負担が増加した。しかし、2018年には州の自治に委ねるかつての制度に戻された。

 ただし、イギリスのNHSのように全国民を対象としておらず、公務員や軍人に対する共済組合制度、労災の共済制度は従来の保険制度のままである。2002年には、さらなる憲法改正に伴って、保健及び福祉の権限が州に完全に委譲された。GDP(国内総生産)に占める医療費の割合は8.8%と先進国の中で低くなっている。原則として薬剤とごく一部の診療を除き、無償で医療が受けられる。

 スペインでは、各州にあるプライマリケアセンター(GP:General Practitionerや看護師が対応)か、へき地の場合には地域の保健所などにまずアクセスする原則がある。GPが病院への入院、またはより専門的な外来医療に紹介する役割を担っている。

 ここが日本のようなフリーアクセスの国と大きな違いであり、市民や感染対策における受診行動に影響を与えた可能性がある。

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筆者

石垣千秋

石垣千秋(いしがき・ちあき) 山梨県立大学准教授

石川県生まれ。東京大学卒業後、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務、バース大学大学院(英国)、東京大学大学院総合文化研究科を経て2014年博士(学術)取得。2017年4月より山梨県立大学人間福祉学部准教授。主著に『医療制度改革の比較政治 1990-2000年代の日・米・英における診療ガイドライン政策』(春風社)。専門は、比較政治、医療政策。

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