石垣千秋(いしがき・ちあき) 山梨県立大学准教授
石川県生まれ。東京大学卒業後、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務、バース大学大学院(英国)、東京大学大学院総合文化研究科を経て2014年博士(学術)取得。2017年4月より山梨県立大学人間福祉学部准教授。主著に『医療制度改革の比較政治 1990-2000年代の日・米・英における診療ガイドライン政策』(春風社)。専門は、比較政治、医療政策。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く
病院の経営主体別にみると、公的病院が75%程度でベヴァリッジ式の医療を提供している国としては低い割合である。他は営利の民間病院で自由診療である。カタルーニャ州の場合は他州と異なり、保健当局との契約に基づき民間非営利の病院がサービスを提供している。
国民の民間保険加入は任意のため、加入率は2001年の7.6%から上昇傾向にあるが、2017年現在16.5%になった。この割合は、ベヴァリッジ式の医療制度の国では高い割合で、イギリスでも10%程度である。市民が加入する目的は、GPや公的病院ではなく、自由診療の民間病院でより早く医療サービスを利用するためである。リーマンショック後の2009年から2015年には政府支出が減った分、民間保険を利用した自由診療が拡大し、自己負担が医療費の30%弱にまで達している。EU諸国の自己負担の平均が約24%であり、高い割合になっている。
医療の提供は州の保健当局が担当しているが、公衆衛生では「カルロスⅢ世 衛生研究所」があり、医療技術評価・費用対効果分析を行う機関のネットワークが充実している。(https://sede.isciii.gob.es/index.jsp)
今回の新型コロナウイルスの感染対策には、この衛生研究所が感染状況の分析やPCR検査の指導など、重要な役割を果たしている。
医療提供体制についてOECDのデータをみると、医師数はOECD諸国の平均が人口千人あたり3.5人であるのに対し、日本は2.4人だがスペインは3.9人と比較的多い。ベッド数は人口千人あたり3.0床である。
【OECD Healthデータから見る各国の医療提供体制】
スペインのGDPに占める医療費の割合は8.8%(2017年)で、OECDの平均とほぼ同じである。しかし、2010年代に入ってから医療費の上昇を抑えており、2015年には9.0%だった医療費の割合を8.8%にとどめている。人口千人あたりの病床(ベッド)数も緩やかに削減してきており、2018年には3.0床とOECD平均の4.7床より少なくなっている。
【GDPに占める医療費と人口千人あたりの病床数】
研究者や医療政策立案者らが、医療へのアクセス時間を国際比較するために用いる「股関節置換手術」への待機期間の比較をみると、病院への待機期間が長いと指摘されるイギリスよりも長く、州による差も大きい。たとえば、マドリードの付近では平均49日で手術が受けられるが、マドリードの東側から南側に位置するカスティラ-ラ・マンチャ州では平均156日になっている。
(https://ec.europa.eu/health/sites/health/files/state/docs/2019_chp_es_english.pdf p.18)
ここから読み取れるのは、ごく初期の医療へのアクセスは容易であっても、病院へのアクセスがよくないということだ。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?