スペイン風邪に感染した平民宰相・原敬。米騒動から見えたコロナ禍に通じる教訓
世界的な感染症流行のなか直面したもう一つの国家危機を日本はどう乗り越えたのか
曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)
新型コロナウイルスの脅威は、次第に国家体制の中枢にも忍び寄り始めた。
イギリスのボリス・ジョンソン首相は感染防止担当の保健相と時を同じくして罹患(りかん)し、集中治療室に入った。ドイツのメルケル首相も、検査で陰性が確認されたとはいえ、2週間の自宅隔離を余儀なくされた。
日本でも安倍晋三首相と麻生太郎副総理兼財務相は同時感染を避けるため、会合で同席しないよう申し合わせた。安倍首相が不測の事態に陥った場合は、麻生副総理が臨時代理を担うことも、改めて国会答弁で確認された。

4月はじめの参院決算委の再開前、言葉を交わす(前列左から)安倍晋三首相と麻生太郎財務相。新型コロナウイルスの同時感染を避けるため、会合で同席しないことになった=2020年4月1日
世界の首脳も罹患した100年前のスペイン風邪
危機の際、過酷な状況下で適切な判断を迅速に出さねばならないトップリーダーにはまず、それを支える身体と精神の安定が必要なことは言うまでもない。
ほぼ100年前、世界中で猛威を振るったスペイン風邪は、第1次世界大戦の休戦を早めたとされる一方で、パリ講和会議では米英仏3国の首脳がそろって発症した。彼らの政治決断や交渉に影響を与えて、結果的にドイツに対する天文学的な数字の懲罰的賠償につながった可能性さえ指摘されている。
ふと思い出した。確か、当時の日本の原敬首相もスペイン風邪に罹ったのではなかったか。憲政史上初めて本格的に政党が主導する内閣を誕生させ、「平民宰相」と評判をとった頃の話である。