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CAも活用 イギリスの大胆な新型コロナ対策 日本も見習うべきだ

イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く

石垣千秋 山梨県立大学准教授

(1)病院へのアクセスの悪さ

 イギリスでは、救急の場合を除き、まずGP(General Practitioner)を受診し、GPによって専門医の診療を受けることが必要と判断される場合に、紹介状が病院に送られ、患者が病院を受診する仕組みである。だが、以前の連載「あなたは『ゆりかごから墓場まで』を望みますか?」でも記述した通り、地域差があるとはいえGPの受診でさえも2日程度の時間を要することもあり、日本のように軽い症状でもすぐ受診するという習慣がなく、市販薬で対処しようとする傾向がある。

 さらに病院へのアクサスはさらに良くない。受診のために数週間の待機時間を要することも多い。この点は以前から問題であり、総選挙の度に各政党のマニフェストに取り上げられてきた。

 近年新たに浮上しているのは、いわゆる「社会的入院」の問題だ。イギリスでも高齢化が進んでおり、急性期病床が退院後の行先がない高齢者に利用されているのである。福祉国家として知られるイギリスだが、他のヨーロッパ諸国と比較して老齢年金の給付水準が低く、日本の介護保険のような要介護高齢者の保障制度は十分に整っていない。介護費用を賄うために高齢者が貧困に陥ることも少なくない。

 このように医療機関へのアクセスが良くないという日常的な環境や習慣が、今回の新型コロナウイルスの感染拡大につながる遠因の一つと考えられる。

(2)CT台数・検査実施数の少なさ

 CTも、人口100万人あたりの保有台数は9.5台とOECDの主要国の中では目立って低い(OECD平均26.8台)。実施数も人口千人あたり92.3件(OECD平均144.1件)と、イタリアの89.9件に次いで低い。これも新型コロナウイルスの感染拡大につながる遠因の一つであると推測される。

(編集部注:Covid-19の診断では、PCR検査が注目されているが、肺炎の診断をする際、一般には臨床症状に加え、レントゲン撮影で行われる。しかし、日本でも報告されているが、レントゲンでは肺炎症状が見つからず、CTで初期の肺炎が見つかるケースがある。治療薬がない中、抵抗力の弱い人の場合、ウイルスの増殖が激しく急激に悪化する場合があるので、早期発見し対症療法に結びつけることが重要とされている)

不要不急の海外渡航禁止は3月になってから

 イギリス政府の新型コロナウイルス対策の初動は、欧州諸国の中でも遅かった。新型コロナウイルスの発生が伝えられた1月から政府は、手洗い、咳エチケット、社会的距離(social distancing)の啓発活動を積極的に展開していた。しかし、不要不急の海外渡航とクルーズ船の利用が禁止されたのは、3月になってからだ。その後政府は「外出を止めよう、NHSを守ろう、命を守ろう」をスローガンとしたキャンペーンを展開した。

 ロックダウンの施策をとる前の3月13日、発熱や咳が継続する場合には、症状の出現から7日間自主隔離を、3月16日からは症状がある人と同居する人は14日間の自主隔離を政府は国民に要請した。ただし、入院患者を除き、こうした対象者には検査を実施していない。

イギリスロックダウン拡大ロンドンにある食品スーパー「コストコ」の外で社会的な距離をあけながら順番を待つ買い物客=AP

 さらに3月21日には免疫抑制剤の利用者や臓器移植を受けた人など、重症化リスクが高い人は自宅に待機するよう要請した。同日、ジョンソン首相、財務相、主席医療官(CMO: Chief Medical Officer)の補佐官が会見を実施し、週末にパブ、飲食店を閉店するように要請した。すでに財務省は3月11日に300億ポンド(1ポンド=134円で4兆2000億円)の特別予算を発表しており、休業対象の事業者、影響を受けるフリーランスの労働者に対して、過去3年間の所得平均所得の80%を補償(上限2500ポンド、1ポンド=134円で33万5000円)するとした。

イギリスロックダウン拡大ジョンソン首相の演説を伝えるイギリス首相官邸のHPから引用(https://www.gov.uk/government/speeches/pm-statement-on-coronavirus-22-march-2020)

 主席医療官は、イギリスにおける感染症との闘いの歴史に由来する行政職である。1848年、イギリスでは早くも公衆衛生法が制定され、1854年には疫学の祖とされるジョン・スノウがコレラの発生源となったロンドンの井戸を突き止めたことで知られる。最初の主席医療官が指名されたのは1855年であり、以降設置されてきた行政職(学界の長などを首相が指名)である。主席医療官は「国家の医師」として政府のアドバイザーを務める。日本が事態の発生に合わせて「専門家会議」を構成しているのとは対照的に、常に医学面のアドバイザーが官邸と近い行政職にいるのである。

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筆者

石垣千秋

石垣千秋(いしがき・ちあき) 山梨県立大学准教授

石川県生まれ。東京大学卒業後、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務、バース大学大学院(英国)、東京大学大学院総合文化研究科を経て2014年博士(学術)取得。2017年4月より山梨県立大学人間福祉学部准教授。主著に『医療制度改革の比較政治 1990-2000年代の日・米・英における診療ガイドライン政策』(春風社)。専門は、比較政治、医療政策。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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