2週間後に感染者がピークに達した後、減少に転じるというシミュレーションを検証
2020年04月12日
緊急事態宣言が出された4月7日に先立つ3日、政府専門家会議のメンバーである北海道大学の西浦博教授が、「東京都では患者が急増しており、感染が爆発的に増加する段階に入った可能性がある。…外出を欧米に近い形で厳しく制限し、人と人の接触を8割減らす対策を取れば、10日~2週間後に感染者が1日数千人のピークに達しても、その後に対策の効果が表れ、急速な減少に転じる」というシミュレーションを発表しました(参考)。
これで世論は一気に緊急事態宣言に傾き、4月7日の緊急事態宣言発出の記者会見においても安倍総理が「私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と述べ(首相官邸HP)、具体的目標として「『人と人の接触8割削減』による『2週間後のピークアウト』」を掲げたのは記憶に新しいところです。
総理が正式に口にした以上、当然と言えば当然ですが、「人と人との接触8割削減」は緊急事態宣言後、マスコミで何度となく取り上げられ、事実上日本の新型コロナ対策の「公式戦術」(これは「戦略」ではなく「戦術」の位置づけになります)となっていますが、一方で実のところこの「人と人との接触8割削減」戦術の中身とその詳細は明確ではありません。そこで、本稿ではこの点について論じたいと思います。
まず「人と人との接触8割削減」の論拠と中身ですが、これだけ「公式戦術」として定着しながら、公式には、緊急事態宣言が出された4月7日に改正された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」において、「以下の対策を進めることにより、最低7割、極力8割程度の接触機会の低減を目指す」とされて個別の対応が列挙されているだけで、詳細についてまとまった記述はありません。
従ってその内容は西浦教授がSNSを通じて個人的に出している情報発信やマスコミ報道(参考1、参考2)からうかがい知るしかないのですが、果たしてこれは妥当なものと言えるか、以下論じます。
上記のSNSにおける情報発信やマスコミ報道における西浦教授の説明を総合すると、「人と人との8割削減」が導かれたロジックは以下の通りと考えられます。
①新型コロナウィルス感染症は、R0=2.5である。
②「人と人との接触」には「削減可」のものが75%、医療者と患者等「削減不可」のものが25%ある。
③2.5×0.75×(1-0.8)+2.5×0.25=1で、「削減可」の部分を80%削減すれば感染は収束する。
ここで、①②③を全体としてみたロジック自体は、結局のところR0=2.5×(1-0.6)=1.0という間違い様の無い事を言っているのであり、当然ながら合理的なものといえます。
問題は、①、②、③の個別の事項にあります。
まず、①ですが、新型コロナウィルスは新しいウィルスであり確定的な事は言えませんが、WHOが公表しているところでは、そのR0は1.4~2.5とされており(参考)、R0=2.5は実は最も大きい(感染拡大速度が速い)推計です。
さらに「ウィルスの性質」という意味で世界共通のR0を使うことは、純粋な計算の前提としては分かりますが、これを日本での対策の前提とした場合、例えば「日本人は欧米人にくらべて『ハグ』をしない」というような、日本社会においてはすでに社会的・文化的に削減されているものも「新たに削減するべき人と人の接触」に入ってしまうことになります。
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