星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
合格点にはほど遠い安倍政権の洞察力・調整力・発信力。立て直しは可能か
そうした観点からすると、安倍政権の初期対応はどうだったか。
ウイルスの感染力の強さを考えれば、中国から日本への入国を早期に遮断する必要があったが、後手に回った感は否めない。日本国内で初めて感染が確認されたのが1月16日。国内に住む中国人だった。しかし、政府の専門家会議が初会合を開いたのは、それから1カ月後の2月16日だった。
政権内では、感染症の専門家の考えに従って入国規制を求める意見もあったが、中国との経済関係を重視する意見が強く、対応の遅れにつながった。これによって、武漢を含む中国からの旅行者が感染源となるケースが相次いだ。専門家の知見は重視されなかった。
安倍首相からは、ウイルスとの戦いの意味や中長期の展望も示されなかった。日本は自由貿易や自由な人の往来などでグローバル化の恩恵を受けてきたが、首相の口からはグローバル化の「負の産物」にどう向き合うかという骨太の見解は聞かれなかった。初期対応や中長期の戦略作りで、政治の洞察力は示されなかったのである。