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コロナ危機と政治の役割 安倍首相が試される「三つの力」

合格点にはほど遠い安倍政権の洞察力・調整力・発信力。立て直しは可能か

星浩 政治ジャーナリスト

緊急事態宣言について取材に応じる前にマスクを外す安倍晋三首相=2020年4月8日午前10時30分、首相官邸

 新型コロナウイルスが世界を震撼させている。感染の拡大は止まらず、死者も増え続けている。日本では安倍晋三首相が初めての「緊急事態」を宣言。外出自粛や休業要請が強化されている。

 いかにして感染を食い止め、人々の暮らしを守り、将来の展望を切り開いていくか。各国の政治指導者がもがき、苦しんでいる。未曽有の危機の中で、いま政治に何が求められるのか。安倍政権の対応を中心に考えてみよう。

危機下の政治に必要な洞察力

 危機の下でまず、政治に求められるのは洞察力である。

 中国・武漢から瞬く間に広がった新型ウイルスの問題点を把握し、速やかに対応策を練ることが緊要だ。このウイルスはどんな特徴を持つのか、伝染力はどうか、特効薬やワクチンの可能性はどうか。

 国民の生活や経済活動への影響も考えなければならない。専門家の知見や官僚の意見を聞いて、短期、中期、長期の政策をまとめていく。それこそが、まさに政治の基本である。

 今回のウイルス感染の拡大はグローバル化の「負の産物」と言える。国境を越えた人の移動が、世界各国で感染者を増やした。だからといって、グローバル化にブレーキをかけることはできない。一時的な出入国制限は続くとしても、国境に壁を作って人の流入を阻むのは無理である。

 また、感染拡大を防ぐための外出制限は、倒産や失業などで弱者に深刻な影響を及ぼす。政府にとっては、その対応が急務となる。

 中長期的にはWHO(世界保健機関)をはじめとした国際機関の機能強化によって、グローバルな危機にはグローバルな組織で対応する枠組みが必要になる。

後手に回った初期対応、専門家の知見は重視されず

 そうした観点からすると、安倍政権の初期対応はどうだったか。

 ウイルスの感染力の強さを考えれば、中国から日本への入国を早期に遮断する必要があったが、後手に回った感は否めない。日本国内で初めて感染が確認されたのが1月16日。国内に住む中国人だった。しかし、政府の専門家会議が初会合を開いたのは、それから1カ月後の2月16日だった。

 政権内では、感染症の専門家の考えに従って入国規制を求める意見もあったが、中国との経済関係を重視する意見が強く、対応の遅れにつながった。これによって、武漢を含む中国からの旅行者が感染源となるケースが相次いだ。専門家の知見は重視されなかった。

 安倍首相からは、ウイルスとの戦いの意味や中長期の展望も示されなかった。日本は自由貿易や自由な人の往来などでグローバル化の恩恵を受けてきたが、首相の口からはグローバル化の「負の産物」にどう向き合うかという骨太の見解は聞かれなかった。初期対応や中長期の戦略作りで、政治の洞察力は示されなかったのである。

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