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新型コロナは外交手段? マスク輸出と内需拡大で経済復興を始めた中国

今年のGDP成長率のターゲットは4%以上。中国の動きは世界に何をもたらすか

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

拡大中国・長沙市から京都市に届いたマスクの入った段ボール=市提供

 新型コロナウイルスの蔓延でマスクが世界的に不足するなか、中国がマスクで世界に攻勢をかけている。

 中国が4月10日(金)までに船積み等を終えたマスクの合計は34億枚に達した。この中には、ニューヨーク州への寄付もあれば、イタリアを訪れている中国人医療支援団が持ち込んだもの、さらにはソフトバンクの孫正義会長が日本政府に寄付した100万枚も入っている。

 船積みとしたのは、船、飛行機、トラック、貨物車の四種類の運送手段を使っているからだ。いまやマスク輸出は、運輸業にとって重要なビジネスになっている。

マスクを大増産する中国企業

 武漢の都市封鎖が解除されたのは4月8日だが、それ以前に稼働を始めた他の都市や工業地域では、都市封鎖や外出自粛で売り上げの落ちた工業製品に変わって、マスクを作り始めている。

 中国政府関係者の話では、2000社以上がマスク生産のためにフル稼働、中には三交代制のところもあり、今週末にはさらに10億枚が船積みされるとのことである。この中には国営企業が1割ほど含まれている。

 ここには日本のメディアに流れたフランスへの10億枚の輸出の話は含まれておらず、この先も外需が旺盛であることがうかがえるが、とにかく世界中で不足しているマスクをこの規模で提供できるのは、現段階では中国だけである。

 中国による“マスク外交”が、それを受け入れる国にとって、どれほど将来の足かせになるかどうかはわからない。また、国によって影響度も違うだろう。

 しかし、米国の多くの州や都市が受け入れているように、今は自国のマスク不足を解消するため、どの国もこの中国の生産力を利用しない手はない。

 隣国である日本も、中国がコロナ感染の苦境に喘いでいたとき、マスクを送った地方公共団体や小学校などがあるのだから、立場が逆になった現在は、まずは人命優先の防疫体制強化のため、支援を求めればいいのではないだろうか。

 中国製マスクには不良品が多いとの不満も聞こえてくるが、それも歩止まりの問題なので、全体の数が多ければ解決する話と、割り切ればいい。そもそもマスク工場ではないところで作ったモノである。彼らにとっては、ここは「質より量で勝負」なのだ。


筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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