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緊急事態宣言の日、坂本龍一さんと話す

[184]上野・アメ横、宇都宮のバー、坂本龍一さん、緊急事態宣言の記者会見……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

4月1日(水) コロナウイルス禍で、エイプリルフールを笑って過ごすような空気ではない。雑誌「クレスコ」の原稿。この期に及んで東京オリンピックに拘泥する人々のことを書くことにしたのには理由がある。安倍首相がこう言い放ったからだ。

 「今後、人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして完全な形で東京オリンピック・パラリンピックを開催するためにIOC(国際オリンピック委員会)バッハ会長と緊密に連携していくことで一致した。日本は、開催国の責任をしっかりと果たしていきたい」

 来夏にはコロナウイルス禍もすっかり終息して、「人類がウイルスに打ち勝った証し」として、オリンピックをやると言っているのだ。「東日本大震災復興の証し」ではなかったのか。僕は正直、頭がくらくらする思いがした。この宗教的信仰のような姿勢は何なのか。

 「調査情報」ではミシェル・フーコーとナオミ・クラインに触れよう。昔のフーコーの本が未整理のままどこに行ったか不明のものもあって、本の整理をきちんとやってこなかったことが悔やまれる。『臨床医学の誕生』という本が見当たらない。みすず書房から今月再刊されるとのことで、編集部に問い合わせたら、内容は旧刊と全くおんなじだと言われて、あちゃーという感じ。フーコーの省察が今現在、コロナウイルス禍で起きていることを考える上で貴重な枠組みを提供してくれているように思うのだが、学者たちの声が聞こえてこない。

 あした、アメ横と栃木県の宇都宮へ取材に行くことに。国や行政の国民への外出自粛要請、接待を伴う一部飲食店への立ち寄り自粛要請などで壊滅的な打撃を受けている人々の声に耳を傾けようという趣旨の取材だ。早めに眠る。

4月2日(木) 上野のアメ横は年末の大賑わいの時に取材に来たことがあるが実はかなり久しぶりに来た。本当に人が少ない。今の時期は例年だと花見客が流れてきて賑わっていたのにという。8割から9割減という。この時期のこういう客足の多い(はずの)場所での取材もマスク着用マストというルールが局でも出来上がっている。相手をまもるためだけでなく、自分もまもるためだと説明される。

 中東系の人がやっているケバブ店もあったが、客足はさっぱりだという。話を聞くだけでも気の毒になる。いくつかの店はシャッターを下ろして閉店していたが、「ありゃ中国系の店だよ」とシワガレ声のおっさんが僕に囁(ささや)いた。取材クルーはこのまま車で宇都宮まで移動するというのだが、僕はいったん別れて、上野駅から新幹線で移動し、夕方に現地でドッキングすることにする。短時間、上野を散策する。公園が閉まっているので、人出がやはり少ない。

宇都宮のオリオン通りというメインストリートにあるバー「山野井」拡大宇都宮のバー「山野井」=撮影・筆者
 新幹線で宇都宮へ移動。喫茶店で情報収集。宇都宮のオリオン通りというメインストリートにあるバー「山野井」を訪ねる。みるからに趣のある店だ。特にお店の看板が切り絵をあしらったもので、とてもセンスがいい。

 オーナーはバーテンダー業界でも著名な方だとうかがっていた。とても怒っていた。3日前の小池東京都知事の「中高年の皆様には、バーやナイトクラブなど当面控え、自粛をしていただきたい」という発言に対してだ。「名指しされましたからねえ」と。客足は普段の1割にも満たないと。運転資金は飲食業組合の銀行融資なども考えるが、それが尽きたら自分の貯蓄を突き崩し、それが終わったら店を閉めるしかない、と。今日はお酒を控えたが、1年たったらゆっくりと来てみたい店だ。

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筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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