山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
医療・教育関係者の多くは「2カ月は短すぎ」。大原則は「国民の命は経済より大事」
ところが、医療関係者や教育関係者の間では、「2カ月は短すぎ」「5月11日の学校再開は早すぎ」と指摘する声が多い。パリ市内のピティエ・サルペトリエール公立病院のルノー・ピアロ教授もその一人だ。週刊誌「レクスプレス」とのインタビューで、「死者数は下降カーブを描き始めているが、まだ十分ではない。解禁は早すぎる」との主旨の発言をしている。
教授は2017~19年に中南米ハイチでコレラが猛威を振った際、現場で指揮を取り、食い止めた実績がある。仏メディアからは「Covid-19との戦いを勝利に導ける唯一の将軍」と呼ばれている。フランスでは大統領が3月18日の2回目のラジオTV演説で、「これは戦争である」と宣言して以来、Covid-19との戦いは大げさでなく、「戦争」との認識だ。
大統領が「外出禁止」の延長を宣言した4月13日の時点で、死者は約1万5千人、その後も増え続け、2万人に迫ろうとしている(大統領の演説から5日後の4月17日現在で1万8681人)。確かに大統領が演説した時点では、死者数は下降のカーブに入っていた。4月初めの死者の前日比が500人前後で急増したのに対し、死者数は前日比で300人台に減っていた。しかし、ピアロ教授は「満足すべき状態ではない」と強調していた。
Covid-19の感染を終息させるには、目下のところ、唯一の有効な「武器」である「外出禁止」を数カ月続ける必要があるというのが、仏医療関係者の一致した見方だ。たとえ、数カ月先に「蔓延が終了しても、Covid-19の免疫がある人の比率はフランスの人口の5~10%」(教授)と少ない。「回復してもかならずしも、免疫ができるとは限らないとの報告もある。このウイルスには謎が多い」(仏医学アカデミーのメンバー、ディディエ・ウッサン教授)
教育関係者の間でも、解禁は「早すぎる」との指摘がある。