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新型コロナで「外出禁止」延長のフランス。それでも「短すぎる」の声

医療・教育関係者の多くは「2カ月は短すぎ」。大原則は「国民の命は経済より大事」

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

 日本で4月8日にやっと、「自粛」のただし書き付きで7都府県(後にやっと全国)への「緊急事態宣言」が出されたが、フランスではマクロン大統領が4月13日、「外出禁止」を5月11日まで延長すると宣言した。これにより、3月17日から開始の「外出禁止」は2カ月間に及ぶが、医療関係者や教育現場からは「短かすぎる」との懸念の声も上がっている。

 マクロン大統領の「新型コロナウイルス(Covid-19)」に関するテレビ演説はエリゼ宮(大統領府)から3回目、仏東部ミュルーズの野戦病院からも含めると4回目になる。当初4月15日が「外出禁止」の解禁日だったので、さらに1カ月間の延長だ。

 しかも、5月11日の解禁は学校(小学校から高校まで)などの一部が対象。レストランやバーなどは閉鎖を続行し、コンサートや大集会も禁止のままだ。フランスの夏の風物詩ツール・ド・フランス(自転車競技)はなんとか約2カ月遅れの8月29日から9月20日の開催が決まり、関係者が焦眉を開いたところだ。

OHishiapply/shutterstock.com

まるで「独房監禁」の生活

 フランスの場合、「外出禁止」に違反すると、罰則がある。「必要不可欠」な仕事での外出や食糧品と薬品の買い物、あるいは病院での診察のための外出時には、政府発行の「許可証」の携帯が義務付けられる。

 携帯しなかったり、自宅から1キロ、1時間といった距離と時間の制限を破ったりした場合(マラソンは市町村で決めた時間内=パリは午前10時から午後7時まで禁止)は、135ユーロ(1ユーロ=約120円)の罰金が科せられる。再犯は増額され、最高刑は禁固刑だ。4回も再犯を重ねた20代の男性や、取り締まりの警官を罵倒してツバを吐いた女性には、禁固1年の実刑が科せられた。それでも、復活祭(4月13日)前後には違反者が多く、フランス人の「自由」への渇望が強いことが証明された。

 これまで、大半のフランス人にとっても馴染みが薄かった「外出禁止=Confinement」という単語は、今や3、4歳の子供もさえも口にしているが、辞書を引くと、「外出禁止」と共に「独房監禁」の意味が記されている。

 筆者には、こちらの意味の方がピッタリで、この先、まだ1カ月も続くかと思うとウンザリする。

医療関係者の見方は「数カ月継続が必要」

 ところが、医療関係者や教育関係者の間では、「2カ月は短すぎ」「5月11日の学校再開は早すぎ」と指摘する声が多い。パリ市内のピティエ・サルペトリエール公立病院のルノー・ピアロ教授もその一人だ。週刊誌「レクスプレス」とのインタビューで、「死者数は下降カーブを描き始めているが、まだ十分ではない。解禁は早すぎる」との主旨の発言をしている。

 教授は2017~19年に中南米ハイチでコレラが猛威を振った際、現場で指揮を取り、食い止めた実績がある。仏メディアからは「Covid-19との戦いを勝利に導ける唯一の将軍」と呼ばれている。フランスでは大統領が3月18日の2回目のラジオTV演説で、「これは戦争である」と宣言して以来、Covid-19との戦いは大げさでなく、「戦争」との認識だ。

 大統領が「外出禁止」の延長を宣言した4月13日の時点で、死者は約1万5千人、その後も増え続け、2万人に迫ろうとしている(大統領の演説から5日後の4月17日現在で1万8681人)。確かに大統領が演説した時点では、死者数は下降のカーブに入っていた。4月初めの死者の前日比が500人前後で急増したのに対し、死者数は前日比で300人台に減っていた。しかし、ピアロ教授は「満足すべき状態ではない」と強調していた。

 Covid-19の感染を終息させるには、目下のところ、唯一の有効な「武器」である「外出禁止」を数カ月続ける必要があるというのが、仏医療関係者の一致した見方だ。たとえ、数カ月先に「蔓延が終了しても、Covid-19の免疫がある人の比率はフランスの人口の5~10%」(教授)と少ない。「回復してもかならずしも、免疫ができるとは限らないとの報告もある。このウイルスには謎が多い」(仏医学アカデミーのメンバー、ディディエ・ウッサン教授)

「子供を保護するのは政府ではなく親の務め」

 教育関係者の間でも、解禁は「早すぎる」との指摘がある。

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