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政党はコロナによる政治危機にどう立ち向かうべきか

山口二郎 法政大学法学部教授(政治学)

新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、緊急事態宣言の対象区域拡大について発言する安倍晋三首相(右から2人目)=2020年4月16日、首相官邸、諫山卓弥撮影

1 統治能力の喪失

太平洋戦争末期に似るコロナ対策

 3月下旬に安倍晋三首相が東京オリンピックの延期という「英断」を下した直後から、日本における新型コロナウイルスの蔓延は急速に悪化し、7都府県の緊急事態宣言、さらに全国的な緊急事態宣言の決定となった。日本の場合、欧米諸国のようなロックダウンに至っていないので街の人出は減ったものの市民生活はかなり平常に近い。

 しかし、医療現場では崩壊現象が進んでいる。SNSに現れる悲痛な声を読むと、吉田裕氏の『日本軍兵士』(中公新書)で読んだ太平洋戦争末期の帝国陸軍の惨状と同じ構造が見える。医療用の資材が底をつき、マスクを使いまわすとか雨がっぱを防護服の代わりにする話は、食料、武器、弾薬なしで戦わせたインパール作戦と同じである。感染の危険にさらされる状況で医師や看護師に仕事をさせるのは、特攻作戦の発想である。無給研修医の大学院生を治療の現場に駆り出すのは学徒出陣に、一時帰休の全日空の女性職員に防護服の縫製のボランティアを押し付けるのは勤労動員に重なる。一世帯に布マスク2枚を配布して感染を防げというのは、竹やりで米軍と戦う防空訓練を想起させる。休校中の子供が公園で遊んでいるとか、花見をしている人がいるとか110番で通報する人がいるのは、隣組根性の復活か。

2カ月半を空費した日本政府

 新型コロナウイルスの蔓延は今年の1月から3月にかけて中国、韓国で実際に起きた大問題であり、感染が遅れた日本にとっては準備をするための時間が与えられていた。しかし、日本政府はこの2カ月半を空費した。それは、2月中の安倍首相の夜の行動を見れば明らかである。何の緊張感もなく、友人、配下の政治家との会食を重ねていた。オリンピックを予定通り開催して日本の雄姿を世界に誇示したいという野心が3月半ばまで安倍首相と小池百合子東京都知事の最大の関心事であった。そのことが問題の深刻さについての正確な認識を妨げた。2、3月の段階で新型コロナウイルス対策は日本と韓国で対照的な違いを見せていた。昨年来の日韓関係の悪化の中で日本の世論は韓国の検査拡大方針を嘲笑していた。アジアに対する根拠のない蔑視が韓国、中国の経験を冷静、客観的に分析、学習するという態度を阻んだ。

 3月24日のオリンピック延期の発表はポツダム宣言の受諾に当たる。NHKニュースはこれを安倍首相の決断と報じたが、これは敗戦の受容を聖断と美化するのと同じである。オリンピックを実施するために意図的に感染の実態を隠蔽したとまでは言えないのだろうが、これ以後感染拡大は進み、政府もあわてて対策に乗り出した。それにしても、経済活動の持続と感染拡大防止の二兎を追うという不徹底な路線が続いている。

 私には、対策内容の適否を論じる能力はない。しかし、現政権には一元的な指揮責任体制が存在しないことは指摘できる。

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