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トランプを昂ぶらせた米朝首脳会談

第5部「『炎と怒り』から『恋に落ちた』―戦略なき衝動外交」(2)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

 トランプ政権1期目の外交政策における最大のレガシー(政治的遺産)は史上初めての米朝首脳会談といってよい。2017年、米朝関係は軍事衝突寸前の緊張局面にあったが、トランプ氏は2018年に急転直下、対話路線へと転換し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と三回の首脳会談を行った。しかし、トランプ氏のトップダウンによる衝動的な決断が目立ち、北朝鮮の非核化をめぐる米朝交渉は停滞を続けている。これに加え、アメリカ・ファーストで米国の利益ばかりを最重視しているため、国際社会による北朝鮮包囲網にゆらぎも出ている。トランプ氏の北朝鮮政策を検証する。

「正恩氏は戦略的にものごとを考える」

 事態の急展開は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が2018年1月の新年の辞で、米韓合同軍事演習の中止を要求するとともに、2月の平昌冬季五輪の成功に期待感を示したことから始まる。

 正恩氏の演説を受け、トランプ大統領と韓国の文在寅大統領は電話協議を行い、平昌五輪開催中に米韓合同軍事演習を行わないことで合意。北朝鮮は平昌五輪に代表団を派遣し、雪解けムードが一気に高まった。

 3月8日、トランプ氏はホワイトハウスで韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長と面会し、鄭氏を通じた正恩氏の提案を受け入れ、米朝首脳会談に応じることを決めた。

 当時在韓米軍司令官だったビンセント・ブルックス氏は「我々が平昌五輪の時期と重なっていた米韓合同軍演習を延期したことで、五輪は大きな成功を収めた。それが米朝対話にドアが開かれることにもつながったと思う」と振り返る(ビンセント・ブルックス氏へのインタビュー取材。2020年1月4日)。

 ブルックス氏の証言で興味深いのが、米側は2017年秋の一触即発の緊迫局面でも、正恩氏を「戦略的な思考の人物」と分析していた点にある。

拡大初の米朝会談後、カペラホテルで行われたトランプ大統領の会見冒頭で流れたビデオに映し出される北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=シンガポール、ランハム裕子撮影、2018年6月12日

 米研究機関では当時、北朝鮮との間で戦争が起きれば、韓国や日本で数百万人単位の犠牲者が出るという予測が相次いで発表されていたが(Zagurek Jr., Michael J. “A Hypothetical Nuclear Attack on Seoul and Tokyo: The Human Cost of War on the Korean Peninsula.” 38 NORTH 4 October 2017.)、ブルックス氏は「率直に言えば、私はこれらの犠牲者数の予測については信用していなかった」と振り返る。

 「現実に弾道ミサイルが北海道上空を2回飛ぶなど、日本や韓国に住む人々に被害が及ぶ危険があった。しかし、正恩氏の目的は都市破壊ではない。攻撃で恐怖とパニックを引き起こし、米国と同盟国との関係に圧力をかけるためだ。都市の全面壊滅のために兵器を使えば、正恩氏の未来はない。正恩氏は戦略的にものごとを考えている、と我々はみていた」

 米国が空母を派遣するなどして北朝鮮に最大級の軍事的な圧力をかけつつ、北朝鮮は最終的に暴発せずに対話路線に転換する、と期待していたのは、正恩氏に対するこうした分析があったからとみられる。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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