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感染者14万人でも「医療崩壊」しないドイツ 感染者1万人で「医療危機」の日本

イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く

石垣千秋 山梨県立大学准教授

高い行政機能を持つ州が事情に合った施策展開

 ドイツは、19世紀末にドイツ帝国が成立するまで小国、都市などが乱立し、さらに第2次世界大戦後には国家の分断を経験している。1949年に西側陣営にドイツ連邦共和国(西ドイツ)、東側陣営にドイツ民主共和国(東ドイツ)が樹立された。両国は異なる医療体制だったが、東ドイツは1990年のドイツ統一の際に西ドイツの制度に実質的に統合され、現在に通じる西ドイツの制度に一本化された。しかし、東西の経済格差は統一から30年経った今もなお根強く残っている。

 「連邦国家」のドイツでは、ドイツ連邦基本法(憲法)に基づき連邦政府(Bund)は基本法に列挙された事項を実施し、16州(Land)の政府が立法、行政、司法の権限を有する。各州が主な権限を擁する体制は、ドイツ敗戦時に連合国軍に、非ナチ化と同時に示された分権化の方針によるものである。この点で、日本の都道府県とは異なり、州は独立性の高い機能を備えている。

 これが感染対策で重要な先読みした医療体制の準備に後れを取った日本とは、ベースの部分での大きな違いである。

ドイツが医療崩壊しないワケ拡大2020年3月21日、ドイツ・ベルリン。生活に困っている人たちに向けた食料品が詰まった袋。「stay social」と書かれる=anokato/Shutterstock.com

人口の8人に1人が外国人

 国土は日本とほぼ同じで、人口は約8300万人、うち約1090万人が外国人である。一方、日本の人口は約1億2600万人、在留外国人の割合は約2.7%にすぎない。

 ドイツでは近年、難民、移民がEU諸国に流入し、それらに反対する右翼政党が台頭してくるなかにあっても、人道的見地から難民を積極的に受け入れてきた。特にシリアが危機に陥った2015年には74万人を超える難民が流入している。シリアのほか、トルコ、イラクの難民が多い。EU指令に基づく受け入れを行っており、難民に対して成人、子どもの年齢の別による手当の支給や雇用支援を行っている。

 各国で感染拡大を引き起こす遠因の一つとなっている「格差」について、ドイツでは平時からそれを是正する仕組みが整えられていたということも影響を与えているのかもしれない。

【ドイツの難民受け入れの推移】

ドイツが医療崩壊しないワケ拡大出典:https://www.statista.com/statistics/1107881/asylum-applications-total-germany/(2020年4月18日 アクセス)

 そのほかに移民としてEU域内にあるルーマニア、ポーランドからドイツに移住する人もおり、外国人が多い州はノルトライン・ヴェストファーレン州、バイエルン州、バーデン・ヴュルテンベルク州となっている。

開業医に専門医が多いドイツは日本と似ている

 ドイツの医療制度は日本と類似している点が多い。外来診療にあたるのは、個人開業医であり、保険医として登録するか、または保険医とならずに自由診療医として診療を行うことができる。

 開業医は家庭医として一般的な診療科目の診療に従事する場合と、特定の診療科の専門医(スペシャリスト)として診療を行う場合がある。開業医が患者を別の開業医に紹介することもある。一方、病院は一部の例外(希少疾患、入院前後など)を除いて入院診療が中心である。入院は、開業医からの紹介状によって行われる。

 ここまでは日本人が見慣れた医療へのアクセスや医療提供体制ととてもよく似ている。大きく異なるのは医療保険の仕組みである。公的医療保険は、地域や企業ごとに結成された「疾病金庫」によって運営されている。疾病金庫は、日本の健康保険組合や共済組合、市町村などの「保険者」に該当する。公的医療保険に加入しているのは人口の87.7%(2018年)であり、公務員は連邦公務員法によって給付されている。ほか、高所得者は自ら民間保険に入るため、公的医療保険の適用対象とはされていない。ただし、メルケル政権下の改革でいずれかの保険に加入することは義務づけられているため、実際に無保険の人は外国人を中心に0.1%程度にとどまる。

 診療に対する対価は、日本の場合、2年に一度改定される診療報酬という「公定価格」で、一部の入院での診療を除けば、実施した診療内容ごとに「出来高」で支払われる。

 一方ドイツでは毎年、州ごとに疾病金庫と保険医協会、疾病金庫と病院協会がそれぞれ交渉を行い、州内の各保険医、各病院へ疾病金庫が「予算」を配分する仕組みだ。つまり、通常より多くの患者に診療を実施しても、予算を上回った分は支払われないのが通例だ。ただし、高齢化率が南北の州で異なり、それに伴い、医療費の負担も州によって異なってくるため、高齢化率を勘案して連邦レベルで医療費の調整を実施している。また、公衆衛生、医療の提供は各州の保健局が責任を担い、連邦保健省はその調整機関という位置づけだ。つまり、日本の都道府県と違い、州政府に医療政策に通じた人材が多くいる。

 日本のように患者を検査したり、治療したり、薬を処方したりすることによる「出来高」で医療機関が収入を得る仕組みとは根本的に違う。逆に平時から効率的なマネジメントをすることが、医療機関経営者から医療従事者に浸透しているともいえる。このような点も、緊急時のマネジメントに影響を与えている可能性がある。

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筆者

石垣千秋

石垣千秋(いしがき・ちあき) 山梨県立大学准教授

石川県生まれ。東京大学卒業後、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務、バース大学大学院(英国)、東京大学大学院総合文化研究科を経て2014年博士(学術)取得。2017年4月より山梨県立大学人間福祉学部准教授。主著に『医療制度改革の比較政治 1990-2000年代の日・米・英における診療ガイドライン政策』(春風社)。専門は、比較政治、医療政策。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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