石垣千秋(いしがき・ちあき) 山梨県立大学准教授
石川県生まれ。東京大学卒業後、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務、バース大学大学院(英国)、東京大学大学院総合文化研究科を経て2014年博士(学術)取得。2017年4月より山梨県立大学人間福祉学部准教授。主著に『医療制度改革の比較政治 1990-2000年代の日・米・英における診療ガイドライン政策』(春風社)。専門は、比較政治、医療政策。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
イタリア、スペイン、イギリス、ドイツの新型コロナとの闘いを医療制度から読み解く
【OECD Healthデータから見る各国の医療提供体制】
ドイツは、人口千人あたりの病床が8.0床とOECD諸国平均の4.7床よりも多く、人口千人あたりの医師数も4.3人とOECD諸国の中でも多くなっている。さらに、CTも人口100万人あたり35.1台と比較的多い(OECD平均26.8台)。
その分、GDPに占める医療費の割合は11.2%と、フランスと共にアメリカに次いで高い。こうしたことから、ドイツでも医療費を抑制するため、長く医療制度改革が実施されてきた。
【GDPに占める医療費の割合】
日本と類似している点は民間病院が多いことだ。民間非営利病院が病院数の34.1%、民間営利病院が37.1%、公的病院が28.8%である。しかし、日本の病院数が2018年時点でも8800施設を超えるのに対し、ドイツの病院数はわずか1942施設(2017年時点)だ。病床数は約49万7千床(2017年時点)である。
病院のほとんどが公立病院というイギリスやイタリア、スペインのようなベヴァリッジ式の医療制度の国とは異なり、ドイツは民間病院が多いため大幅な病床削減による医療費削減策は実施していない。ただ1991年からの病床や病院数の変化を見ると、病床が26%減少しているのに対し、病院は20%の減少に過ぎない。つまり、わずかな差ではあるが、病院が集約化されてきたことがデータから読み取れる。
【ドイツの病院、病床数の変化】
さらに、ドイツの病院の病床数をみると、800床以上の病床を有する病院が97施設あり、病床の合計は11万8008床となっている。単純平均すると約1217床となり、日本で最大規模の病院に相当する病院が97施設もある。日本で1000床を超す病床を有する病院は20をわずかに上回る程度である。つまり、ドイツにも日本のように小規模病院はあるものの、最後の砦(とりで)となる高度医療を提供し、ハードやソフトで余力を持つ1000床を超す病床を有する病院が日本の4倍以上あるいうことだ。
【病床規模別 病院数・病床数(ドイツ)】
日本は1991年から2018年の間に、病院は17%の減少、病床は8%(※1)の減少である。しかし、もともと日本は病床数が多く、かつ2002年以降に急激に減少している。つまり、病床を減らした病院が点在する結果になった。
【日本の病院数、病床数の変化】
(※2)さらに50床から300床未満の病院が病院全体の約70%(※3)を占め、800床以上の病院を有する大規模病院は、全体の1%に過ぎず、最大の病院でも1000床をわずか上回る程度である。
【病床規模別 病院数(日本)】
このように病院数は少ないものの1000床を超す病院が全体の5%を占め、医療資源が集約化されているドイツでは、非常時の情報伝達、マネジメント、医療資源の配分、感染管理が効率よく行える。
一方、病院が8000以上も点在し、中小病院も多く大規模病院が少ない日本では、新興感染症に対する知識の共有や医療資源の配分が効率よく行えていないのではないかと思われる。
勤務医の確保は、大学病院の医局を頼るだけでなく、最近は民間の医師・看護師の紹介ビジネスがはやり、そこへの依存度を高めてきたのが日本の中小規模の病院の特徴だ。新型コロナウイルスの感染拡大のような緊急時のとき、非常勤医の派遣や当直医のアルバイト、非常勤の看護師派遣などがストップしてしまうと常勤の医療従事者が過度のストレスや疲労を抱え、一挙に「救急受け入れ制限」「外来医療制限」「入院手術制限」などに至る。院内感染や感染者が殺到していないところで「医療崩壊」が起きてくる可能性がある。
また、日本の病院では外来診療も実施しているため、経営上、外来、入院の両立が迫られる上、市中での感染拡大に伴い、外来患者が新型コロナウイルスを持ち込む確率も高まっている。
あくまでも、外出自粛が要請されている日本とドイツをごく基本的な情報で比較しただけではあるが、こうした違いがある。
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