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緊急事態宣言をどうする? 新型コロナと5月7日以降の日本

PCR検査を拡大し、より「有用」で「実現可能」な「4割削減」戦略に転換を

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

緊急事態宣言を出してから2週間経ったことを受けて、取材に応じる安倍晋三首相=2020年4月21日午前9時54分、首相官邸

 東京、神奈川、大阪、福岡など7都府県を対象に4月7日、初の緊急事態宣言を出した安倍晋三総理は、それから9日後の16日に宣言の対象を全国に広げました。22日で緊急事態宣言の効果が出るとされた「2週間」が経過し、新規感染者数には変化も見られます。

 次の焦点は、緊急事態宣言を効力が切れる5月7日以降、宣言を継続するか否かです。政府は4月29日からはじまる連休中に判断するとのことですが、本稿では、現在までの状況から、「5月7日以降」どうすべきかを論じたいと思います。

人と人との接触削減は3~4割程度?

 まず感染の状況についてですが、4月15日、厚労省クラスター班の西浦博教授が、「何もしなければ80万人の感染者が出て42万人が死亡。感染を収束させるには人と人との接触80%削減が絶対必要」という記者会見を行って世論に衝撃を与えました(参考)。これ以降、政府も世論も「8割削減」により、早期に新型コロナウィルスの拡大を抑えることを目標に動き出しています。

 しかし、その後の実際の感染状況を見ると、新規感染者数は全国では4月12日の714人、東京都では4月17日の201人をピークに頭打ちとなっています。いずれも緊急事態宣言後14日以内であり、緊急事態宣言「前」の状態を反映したもので、北海道大学の西浦博教授がセンセーショナルに打ち出した「何もしなければ80万人の感染者が出て42万人が死亡」(西浦教授は別の意図で言ったのかもしれませんが、少なくとも世論・マスコミはそうとらえ、西浦教授はそれを訂正しませんでした)は、現状では「事実ではなかった」と評価すべきであると思います。

 一方で、院内感染や家庭内の感染が相次ぎ(参考)、東京都では新規感染者の7割程度が経路を終えなくなっており(参考)、「早期の収束」は極めて難しい状況となっています。

 この様な感染状況における「削減状況」ですが、4月20日の週末の人出の状況は、一部で7割程度まで減少したものの、平均的には5割減程度(参考)、通勤電車の削減率も6割程度で(参考)で、いずれも8割には届いていません。これらの数字はあくまで外形的に表れた数字ですから、実際の「人と人の接触」の削減率は、恐らくは3~4割程度であるというのが現実ではないかと思います。

 このため、4月17日の記者会見で安倍総理は重ねて7~8割の削減を求め(参考)、マスコミも同様の訴えを繰り返し流すなどして、世の中はあげて「もっと削減!」「まだまだ削減!」「何が何でも8割削減達成!」に邁進(まいしん)しているように見えます(小池都知事は4月22日、さらにスーパーの入店規制を検討していると報じられています)。

北大の西浦博教授=2020年3月30日、東京都新宿区

8割削減は本当に「必要」で「有用」か?

 しかし、ここで立ち止まって、この「8割削減」は本当に新型コロナウイルス感染症を対策として「必要」で、「有用」で、「実現可能」な戦略といえるのかを考えてみたいと思います。

 まず最初に西浦教授の「8割削減」の前提を整理します。西浦教授は、従前社会に存在する「人と人の接触」のうち25%が「削減不可」、75%が「削減可」として、「削減を考える基準時点におけるRt」を、「ヨーロッパにおけるR0=2.5」と考えて、ここからRt<1.0とする為には「削減可」の部分の「8割削減」が必須であるとしていました(参考1参考2)。(但しこの場合、「削減不可」の25%を加味した全体の削減率は「6割削減」となります)

 ところが、4月22日の専門家会議においては、「削減を考える基準時点におけるRt」を、「ヨーロッパにおけるR0=2.5」と考えるところは変わらないのですが、「全体として8割削減してRt=0.5とし、早期の感染鎮圧を図る」としています(参考

 両者は全く異なる考え方であり、本来変わるはずのない説明がなぜ、突如何の説明もないままこれほど大きく変わるのか極めて困惑するところですが、その検討は別稿に譲り、本稿では、直近の、「削減を考える基準時点におけるRt」を、「ヨーロッパにおけるR0=2.5」として、「全体として8割削減してRt=0.5とし、早期の感染鎮圧を図る」ことを西浦教授の言う「8割削減」の中身とし、「8割削減(Rt=0.5)」と表記します。

 ところが、西浦教授自身が認めているところですが、そもそも「削減を考える基準時点におけるRt」を「ヨーロッパにおけるR0=2.5」とする科学的根拠はありません。私は、専門家会議が4月1日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」において、最も感染が拡大している東京における3月21日から3月30日のデータに基づいて推定されたRt=1.7を、2週間前の「3月16日の東京の状態」として、ここからの削減率を考えるべきだと思います。

 この場合、
Rt=1.7×(1-0.41176471)=0.99
ですので、「3月16日の東京の状態」を基準にすれば、おおむね「4割削減」(正確には「4.1割削減」)でRt~1<1.0となりますので、これを「4割削減(Rt~1<1.0)」と表記します。

 以上を前提として「8割削減(Rt=0.5)」戦略の「必要性」について検討します。

 まず感染の状況ですが、先述した通り、全国、東京都の新規感染者数とも、4月8日に発効した緊急事態宣言の効果が表れると思われる4月21日以前にピークを迎えていますので、緊急事態宣言「前」にRt<1.0となっていたと考えられます。

 先に示した通り、「3月16日の東京の状態」を基準とすれば「4割削減」でRt<1.0となるので、これは、3月28日の安倍総理の自粛要請、3月30日の小池都知事の自粛要請などを経て、4月上旬には、「3月16日の東京の状態」から「4割削減」が実現していたことを意味します。3月下旬から4月上旬にかけて、「自粛」が一気に進んだことは記憶に新しく、この間「4割削減」が実現したという事は、「体感削減率」的に納得のいくところだと思います。

 従って、4月上旬において既に「4割削減(Rt~1<1.0)」が実現している以上、感染を鎮圧するために、さらに「8割削減(Rt=0.5)」を実現する「必要」はない、ということになります。

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