藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
核を組み込む「日米同盟の抑止力」を強化 唯一の被爆国の重みどこへ
こうした注文をつける日本側の「こだわり」には、近年の中国の軍拡への焦りがにじんでいるのだが、核戦略の世界は一筋縄ではいかない。同盟国を守る拡大抑止がからめば、なおさらややこしくなる。しばしお勉強的になることをお許しいただき、説明しよう。
A国(中国)の核に対してB国(米国)が戦略的に脆弱だというのは、もしB国がA国に核攻撃をしても、それでA国の核は全滅せずに、生き残った核によって、核戦略でいう「第二撃能力」でB国に反撃できるということだ。
A国が米国並みの核戦力を持つロシアならまだしも、中国をそこまで恐れる必要があるのかと思われるかもしれない。しかし、中国は核弾頭の数こそ米国に遠く及ばないが、弾道ミサイルを地下に隠したり移動式にしたり、原子力潜水艦を増やしたりして、核が生き残る能力を格段に高めてきた。
では、中国の核戦力がそこまで向上したことを米国が認めると、日本にとって何がまずいのだろうか。日米両政府関係者の見方を整理すると、こうなる。
米国がそれを認めてしまうと、核の世界では米国が中国の反撃を恐れて中国への攻撃をためらうようになる。少なくとも、「米国は中国の核に弱腰になった」と、日本や中国で受け止められかねない。
これは、米国、ソ連の両核大国がにらみ合った冷戦期以来、「核の傘」による拡大抑止につきまとう、二つのジレンマに重なる。同盟国が抱く不安と、敵国が抱く認識だ。