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前のめりの「専門家チーム」があぶりだす新型コロナへの安倍政権の未熟な対応

専⾨家の役割はあくまで助⾔。政治的決断を下し責任を担うのは政権のはずなのに… …

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

緊急事態宣言の是非を議論する基本的対処方針等諮問委員会に臨む専門家ら関係者=2020年4月7日午前10時13分、東京・霞が関

 4月7日の7都府県での緊急事態宣言の発令、15日の全国への緊急事態宣言。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ感染症」)の感染者数が激増するかどうかの瀬戸際といわれるなか、今日はどれくらい増えたのか、気になる日が続く。

存在感を増す専門家たち

 そこで頼りになるのは、専門家の発言である。政府の関係会議の委員の発言であればなおさらである。3月以降、委員たちはチームとなって、テレビやネット記事でのインタビューに答え、新聞・雑誌の取材に応じ、あるいは自らSNSで頻繁に発信している。

 首相との記者会見に同席した専門家会議の尾身茂副座長、NHK番組で明晰に答える押谷仁・東北大教授、ツイッターでの発信に熱心な西浦博北海道大教授……。専門家たちの活躍に、首相・閣僚の存在感もかすむほどである。

 今や感染症対策は、専門家チームが政策の実質を決定し、国民に訴えかけるといった状況を呈している。

 その反面、政府の施策に対する反感は、こうした専門家たちにも向かっている。「クラスター対策優先」、「PCR検査の抑制」、「人と人の接触の8割減少を求める外出規制」といった専門家チームの方針と呼びかけは、人々の日常生活を大きく制約し、経済活動は危機に瀕している。さらに、治療を受けられず、突如重篤化して死に至った犠牲者のケースが報告されると、元凶は専門家チームではないかと批判の声が上がる。

あいまいなままの政権との関係

 専門家たちが、あるときは天使、またあるときは悪魔とも呼ばれる、そんなぎりぎりの状況が続く。ある意味、「専門家支配」とでも言うべき政治状況なのである。

 4月末になって、感染者数の伸びはやや緩やかになってきており、専門家チームの打ち出した方向が正しかったかのようにも見える。だが今後、何らかの深刻な問題が生じたとき、不満の矛先が専門家チームに向けられるなら、政策決定としては決して健全ではない。本来、責任を負うべきは、専門家チームの提言を受けいれて政策を決定した内閣であり、首相だからである。

 にもかかわらず、専門家への不満が非難や責任問題へと結びつき始めているのは、新型コロナ感染症の拡大当初から現在に至るまで、政権と専門家との関係があいまいなままになっているからである。いうまでもなく、責任は政権にある。

専門家登用の動きが鈍かった安倍政権

 なぜ、こうした状況が生まれたのであろうか。実際、感染が広がり始めた当初、政権は感染症対策の専門家にそれほど重きをおいていたわけではなかった。

 政権は1月30日、関係閣僚で構成する新型コロナウイルス感染症対策本部を立ち上げているが、内閣官房が庶務を担当する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」)を開催したのは、2月16日、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で感染者が激増してからだ。感染症の専門家を登用すべきという声に対する政権の「初動」は、明らかに鈍かった。専門家会議の座長は脇田隆字氏、副座長が尾身氏であり、押谷氏も構成員である。

 2月25日には、厚生労働省クラスター対策班(以下「クラスター対策班」)が発足。データチームとリスク管理チームがつくられた。前者に深く関わるのが西浦氏であり、後者は東北大学と連携している点で、同大教授の押谷氏が関わっているものと思われる。その結果、クラスター対策が2月末から本格的に始まった。

似たような会議が次々と設置

 専門家の主要メンバーが出そろったこの時期から、専門家会議は「見解」、さらに「状況分析・提言」を公表し始める。

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