根本的な改革は平時には進展しない。コロナ危機を機に停滞してきた議論を動かせ
2020年05月01日
新型コロナウィルスの感染拡大により、現在、幼稚園から大学まで全国ほとんどの学校で休学が続いている。緊急事態宣言が少なくとも6月初めまでは延長されることが確実になり、学業の遅れがますます深刻になっている。
その中で、一部の学生や多くの知事から、入学を9月にすべきとの意見が表明され、補正予算を審議する国会においても野党がこれを取り上げて議論が行われた。
安倍首相は「(9月入学が)国際社会の主流であるのも事実。前広に判断していきたい」と答弁し、萩生田文部科学大臣も「大きな選択肢の一つ」と強調した。
この9月入学制度は、今回突然浮上したものではなく、2012年に東京大学が自らの措置としてこれを打ち出し、マスメディアで多少の議論はあったが、会計年度との乖離の不便さや、就職時期との調整の困難などの理由から、議論は高まらなかった。
今回この問題が、真剣に議論され始めたのは、休校による学業の遅れが深刻であって、3月末までにそれを取り戻すことが相当困難なことが認識されたからである。その解決策として9月入学が提案されているわけであるが、誤解のないように先ず明らかにしておくと、9月というのは、今年ではなく、来年の9月のことである。
このような大々的な制度改革の実施のためには、法律や省令、規則などの改正は勿論、国民一般への周知徹底、経済界との調整などに多くの時間が必要である。
9月入学制度のメリット、ディメリットについては、他の多くのコラムで紹介されているので、本稿においてはそれは省き、この制度改革に賛成の立場から、その実施に当たっての問題点とその対処法について述べる。
9月入学制度とは、来年以降の入学と進学の時期を9月とし、卒業と学年の終業を3月から6または7月に伸ばすことである。
まず第一に挙げられる問題点は、「学業の遅れは学年が終了する来年3月までに取り戻す必要があるので、来年9月への入学時期の移行は、これに役立たない」という議論である。
小中学校の学習指導要領は、年間35週(1015時間)を教科指導に当てるとされている。7月から来年3月までに使える日数は、運動会などの必要な学校行事、準備期間を除くと27週程度と想定されるので、この期間内に必要な教科指導を行うためには、通常の1.3倍のスピードアップをしなくてはならないとの議論である。
このために考えられている方策は、ICTの活用、授業の仕方のスピードアップ、夏休みの一部返上、土曜授業などであるが、この実施にはかなりの無理があり、子供の体力に悪影響を与えたり、学力の一層の格差拡大を招いたりしかねない。
さらに、感染症の専門家が予想している通り、もし秋以降にコロナ感染の第2波、第3波が来ると、学習日程はますます窮屈になる。こういう状況で、卒業、終業を7月にすることは、約4か月間の時間の余裕が生じるので、子供たちの学業に過度の負担を与えることなく、必要な学習指導ができることになる。
昨年の小学校入学者数は約100万人である。今年の入学者は2013年の4月から14年の3月末までに生まれた子供で、その数は多少減少すると予測されている。
もし来年に9月入学制度が実施されると、このままでは、該当期間が5か月間増加することになるので、新一年生は2014年の4月から15年の8月末までに生まれた子供となり、その数は、一挙に40万人ぐらい増加することとなる。
これでは、教室、教員などの現場は全く対応できなくなる。
これを解決するためには、5年間かけて、新入生該当者の生まれ月を1ヶ月ずつ遅らせて、各年13ヶ月を対象期間とする方法が取りうると考える。これによると毎年の入学者数は約108万人となり、教育現場への負担も最小限に抑えられると判断される。
具体的には、新制度初年度の2021年(来年)9月に小学校に入学する生徒は、2014年の4月から翌年の4月までの13ヵ月間の生まれとし、以降は、基準の生まれ月を毎年1ヶ月遅らせて13ヶ月ずつスライドさせる。そうすると5年目の2025年9月の入学者は、2018年の8月から翌年の8月までに生まれた生徒となり、ようやく8月末までに生まれた生徒が9月1日に入学できるというキリの良い形となる。
なお幼稚園と保育園についても同様に新入園児童の生まれ月を調整する必要がある。
この新たな9月入学制度の直接の影響を受けるのは、現在の在学生とその保護者である。その理解と支持が得られなければ、新制度は成り立たない。
学業期間が約4か月長くなる在学生のうち、義務教育外の大学生と高校生については、何らかの形で授業料などの補助制度を設定する必要がある。これは法律を策定して、来年度予算において計上すべきであろう。
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