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岡江久美子さん「無言の帰宅」報道の非情

[187]自治医大付属さいたま医療センター、横倉義武・日本医師会会長会見……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

4月22日(水) 朝からさいたま市の自治医大付属さいたま医療センターでの取材に。Sディレクター、Mカメラマン、VEのKら信頼万全の取材チームと現場で合流。この病院ではEICU(救命集中治療室)に新型コロナウイルス感染重症患者専用の病床を設けている。

 集中治療専門医の讃井将満医師(副センター長)のガイドのもとで、ICUの内部に入る。とても緊張した。通常エリアでレクチュアを受けている最中に、重症患者の一人に病状の「急変」が起きた。讃井医師はレクチュアを打ち切り病床に駆けつけて行った。5人の重症患者さんたちが治療を受けているEICU、通称「コロナ・エリア」と言われている病床パートは、防護服を着用していない限り、立ち入りが厳重に制限・管理されていた。医療品や器具のやりとりも専用の窓口を通じて行われていた。

自治医科大学付属さいたま医療センターの集中治療室(ICU)。個室の手前も部屋が区切られている=さいたま市大宮区自治医科大学付属さいたま医療センターの集中治療室(ICU)=さいたま市大宮区、撮影・朝日新聞社

 すさまじい緊張感のなかで、看護士さんたち、臨床工学技士さんたちが立ち働いている。物理的、体力的なしんどさに加えて、相当な精神的なプレッシャーのもとにあるのだろう。なかにはまいってしまった看護師さんもいたという。けれども皆その後立ち直っている。現場の人々には高い職業倫理が感じられた。ここには詳しく記すことはできないが、非常に厳粛な気持ちになった。ひるがえって、マスメディアの僕らは一体いま何をなすべきか。苦悶する。

 「埼玉方式」と言われるコロナウイルス感染に対応する地域医療体制をつくるべく、讃井医師らは治療のかたわら、県や医師会との調整作業に奔走していた。取材をしていて、これほど厳粛な気持ちになったことは<3・11>の時以来ではないか。さらに自問する。このような時だからこそ、メディアは「現場」取材を最大限の注意を払いながら継続しなければならないのではないか。なぜそれと逆向きの動きが出ているのか、と。

岡江久美子さんの自宅前の光景

4月23日(木) 後輩のことなどで心配事増える。なぜか放ってはおけない。埼玉県で、自宅待機中だった50代男性がコロナウイルス感染症で死亡。さらに午後、女優でテレビの「朝の顔」だった岡江久美子さんがコロナウイルス感染で死亡とのニュース速報が飛び込んできた。ショックだ。63歳。テレビはその後、このニュースで大騒ぎになっている。

 16時半からFCCJ(日本外国特派員協会)主催のZoomを使ったオンライン記者会見。イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン校教授の渋谷健司氏との質疑だ。事前登録しておいたので僕も参加できた。英語での質疑が条件なので、聞きたいことを事前にFCCJに伝えておく。渋谷氏はWHO(世界保健機関)の顧問もつとめているが、日本の狭いタコツボ化している専門家領域だけではなく、外の知見を聞くことが今は重要だ。初期のPCRテストの制限や、イギリスのようなロックダウン(都市封鎖)方式をとらない日本の外出自粛方式などについて意見を聞きたかったので。だが直前に岡江久美子さん死亡のニュースが入ってきたので、そのことも渋谷氏に伝えて感想を聞いた。

 ゴールデンウイーク後に緊急事態宣言を終了する事はやるべきではない、と渋谷氏は断言していた。あとは、「あなたも家にいろ」と。その通りだが、僕もさまざまな条件を熟慮しながら、生活と仕事の環境を選んでいる。とりわけ、この状況下では。

4月24日(金) 岡江ショックでテレビがこのニュースで覆いつくされている。13時45分、大阪の吉村知事が、休業要請に従わずに営業を続けていたパチンコ店の名前を記者会見の場で公表した。僕はこういう流れがあまり好きではない。要請に従わなかった場合の展開を想像してみる。おそらく目に見える形での「力の行使」がいつか出現するのではないか。その際の感情は国民のなかに容易に「感染」する。

 きのう亡くなった岡江久美子さんの遺骨が無言の帰宅をした

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