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コロナ危機でいよいよ露呈した安倍政権の「検証力」の欠如

状況を分析して効果を検証し新たな施策に役立てる。そんな政治の力量が問われるが……

星浩 政治ジャーナリスト

緊急事態宣言の期間延長を受けた記者会見で質問を聞く安倍晋三首相=2020年5月4日午後6時32分、首相官邸

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、安倍晋三政権は5月4日、緊急事態宣言の期間を5月31日まで延長した。休業自粛はさらに続く。

 感染拡大は医療現場に深刻な負担をもたらし、政府は対応に追われている。そうしたなかで、感染の有無をチェックするPCR検査をめぐる政府の不手際が表面化。安倍首相が何度も「増やす」と約束しているのに、なかなか増えないことに、与野党やメディアの批判は止まらない。

 その背景を探ると、目標が達成できない場合に、その原因を探って対応策を講じるという「検証力」が、この政権には欠けていることが浮き彫りになってくる。

クラスター対策からPCR検査に転換?

 1月にウイルスの国内感染が初めて確認された後、2月にかけては、各地でぽつぽつと発生する「孤発例」が出てきた。厚生労働省は、感染経路をたどってPCR検査を実施。感染者を確認して隔離する対応を進めた。クラスター(感染者集団)対策である。これは一定の効果をあげて、感染拡大は収まるかに見えた。

 しかし、2月下旬から経路が不明の感染者が急増。PCR検査によって陽性者を割り出し、隔離することで感染拡大を防ぐ必要が出てきた。安倍首相は2月29日の記者会見で「医者が必要と考える場合には、すべての患者がPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保する」と断言。クラスター対策からPCR検査による対応への転換とも受け取れる発言だった。

 だが、実際には①発熱が続いても帰国者・接触者相談センターに電話がつながらず、PCR検査に至らない②医師が「検査が必要」と認めても保健所の判断でPCR検査につながらない――といった問題が続出。PCR検査は増えなかった。

首相のかけ声と行政との間に生じた乖離

 背景には、厚労省がPCR検査の拡大に慎重だったことがある。「PCR検査を大幅に増やせば、陽性患者が増えて病院に収容しなければならないが、現実には病院に受け入れる余裕はない。そのため、PCR検査を抑える必要があった」と厚労相経験者は語る。医療崩壊を防ぐためにはPCR検査を抑えるしかないという本音である。

 安倍首相の掛け声と実際の行政との乖離(かいり)が生じていた。本来なら、この段階でクラスター対策からPCR方策への転換を明確に表明し、厚労省にも指示してPCR検査拡大に大きく舵を切るべきだったのだが、それができなかった。

 すなわち、クラスター対策から転換し、感染者は隔離する。人々の外出自粛によって接触機会を減らすことで、感染拡大の動きを抑え込む。いわゆる「自粛と隔離」政策だが、そのためにも感染者を割り出すPCR検査の拡充が不可欠となる。クラスター対策の限界を検証し、自粛と隔離政策を推進するのである。だが、安倍首相の口からは、政策の検証も戦略の全体像も説明されることはなかった。

不信感を招いたPCR検査の拡大停滞

 安倍首相は4月6日、緊急事態宣言を出すにあたっての記者会見で、PCR検査について「1日2万件に倍増する」と表明。8000件程度だった検査を大きく増やす方針を明らかにした。それでも毎日の件数は9000件ほどにしか増えていない。首相が号令をかけた「2万件」が実現しないことは、政権への不信感にもつながっている。

 ちなみに、OECD(経済協力開発機構)は4月末に加盟36カ国のPCR検査数を発表した。それによると、1000人当たりの検査数で日本は1.8人でビリから2番目の35位。

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