メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

北朝鮮をめぐる「誤報」のメカニズム

金正恩委員長「重体説」、その背景と影響を専門家が読み解く(上)

箱田哲也 朝日新聞論説委員

事実でない情報が世界を駆け巡る

北朝鮮西部の平安南道で2020年5月1日、竣工した順川リン酸肥料工場を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が2日に配信した=朝鮮通信

元公安調査庁第2部長の坂井隆さん
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長は手術を受けた、いやすでにこの世にいないのではないか――。

 4月中旬以降、いろんな情報と報道が入り乱れた。5月に入ってまもなく、本人の動静が報じられ、事態は収束しつつある。久しぶりに現れた金正恩氏の映像を見る限り、とても重篤とは思えない。誤報の数々を見ると、事実でない情報や分析を提供したのは、日米韓などの「政府関係者」や北朝鮮「関係筋」たちのようだ。とすれば、その関係者や関係筋は、実は北朝鮮に精通していないのか、あるいは、みんなに虚言癖があるのか。

 内部が見えにくい北朝鮮に関する報道には誤報がつきもの、とはいえ、なぜこんなことが起きるのか。日本政府内で長年にわたり北朝鮮情報に触れ、分析を続けてきた元公安調査庁第2部長の坂井隆さんに聞いた。

さかい・たかし 1951年生まれ。公安調査庁で長年、北朝鮮分析にあたり2012年に退官。共著に『独裁国家・北朝鮮の実像』(2017年、朝日新聞出版)など。

既視感のある「騒ぎすぎ」

SevenMaps/shutterstock.com

 ――一連の騒動を終始冷ややかにご覧になっているようでしたが。

 ちょっと騒ぎすぎとの印象を受けていました。

 最初のきっかけは、4月15日、祖父の金日成(キム・イルソン)の誕生日の参拝行事に金正恩委員長の出席が報じられなかったことです。確かにこれは異例なことで、その理由や背景は注目するに値しました。これはもしかすると、何かが起きているのではないか、と考える人たちがいて、そういう「ニーズ」に即して「金正恩重体」説が投げ込まれた。だからそれだけに注目を集めたのでしょう。

 結果として、「一犬影に吠(ほ)ゆれば百犬声に吠ゆ」という言葉通りの状況が生まれました。ただ、北朝鮮に関しては、これまでも似たような騒ぎがあり、既視感のある出来事とも言えます。

・・・ログインして読む
(残り:約1268文字/本文:約2099文字)