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北朝鮮中枢、動静に迫る困難と「金正恩不在」の深淵

金正恩委員長「重体説」、その背景と影響を専門家が読み解く(下)

箱田哲也 朝日新聞論説委員

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長の重病説が世界を駆け巡った。こうした「誤報」はなぜ起こるのか。前回に続き、元公安調査庁第2部長の坂井隆さんに聞いた。
 さかい・たかし 1951年生まれ。公安調査庁で長年にわたり北朝鮮情報に触れ、分析を続けてきた。2012年に退官。共著に『独裁国家・北朝鮮の実像』(2017年、朝日新聞出版)など。

金氏「重体説」、日米韓それぞれの反応

拡大元公安調査庁第2部長の坂井隆さん

 ――今回、日米韓の各政府の反応も微妙に異なりました。要はどの国の情報機関も、金正恩氏の動静は把握しきれていないということが露呈した格好です。

 トランプ米大統領は、金正恩委員長が姿を現していない段階で、本人がどうしているか、ある程度把握していると述べました。今回に限りませんが、トランプ氏の独特な個性から発したもので、米国政府としての合理的な対応とは一線を画してみるべきだと思います。

 日本政府の対応は、具体的に承知していないのでコメントできません。

 韓国政府は、しきりに「特異動向なし」との見方を発信しました。だが、どれだけの根拠に基づく判断なのか疑問を持っていたし、今もその評価は変わりません。

 金正恩委員長の出現後は、「手術などは受けていない。根拠はあるが具体的には言えない」などと主張しているようです。ただ、「手術を受けた」根拠を得ることはできたとしても(それも相当難しいでしょうが)、「受けていない」ことは、どうしたら確認できるのでしょう。毎日24時間、その動静を把握できていなければ、そうは言えないはずです。

 では、それが可能な金正恩委員長の側近の中に韓国政府の「スパイ」がいるのでしょうか。もしそうなら、韓国政府は、情報源が露見することを恐れて、あんな発表はできないはずです。

 結局、考えられるのは、北朝鮮指導部中枢に通じるパイプがあって、そこからそういう話を聞かされているということ。そうだとすれば、そこから入手できるのは、虚偽ではないかもしれませんが、北朝鮮側が韓国側に渡しても差し支えない、あるいは知ってもらいたい、と判断する情報だけです。韓国政府が把握できているのは、その限りの情報と思った方が間違いないのではないか。もし仮に、それ以上の情報源を持っているのなら、もう少し対北朝鮮政策をうまく展開できているはずです。

 いずれにせよ、韓国政府の対応からは、情報の評価うんぬんよりも、総選挙での与党圧勝を契機に、南北関係を再活性化したいとの政治的願望がまずあって、それに都合の悪い情報は否定したいという思惑を強く感じます。

拡大2019年6月30日、南北軍事境界線にまたがる板門店で対面したトランプ米大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、文在寅・韓国大統領(手前右から)=労働新聞ホームページから

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筆者

箱田哲也

箱田哲也(はこだ・てつや) 朝日新聞論説委員

1988年4月、朝日新聞入社。初任地の鹿児島支局や旧産炭地の筑豊支局(福岡県)などを経て、97年から沖縄・那覇支局で在日米軍問題を取材。朝鮮半島関係では、94年にソウルの延世大学語学堂で韓国語研修。99年からと2008年からの2度にわたり、計10年、ソウルで特派員生活をおくった。13年4月より現職。

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