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PCR検査はなぜ制限されたのか~緊急対談「中島岳志×保坂展人」(前編)

PCR検査を拡大する──世田谷区の取り組み

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

感染者を検査で多く見つけた地域から終息していく

中島 そうして、症状のある人が検査を受けやすくするのは非常に大事だと思います。

 日本政府はコロナウイルス感染拡大が始まった当初から、感染者の集団を作らないという「クラスター対策」を対策の中心に据えてきました。それは感染拡大の初期段階においては効果を発揮した部分もあったと思いますが、感染ルートを追えない患者が多くなった時点で、PCR検査の拡大へと方向転換すべきだったと思います。

 しかし、政府もその諮問機関である専門家会議も、いまだ方針の転換をはっきりと示していません。

 そのために、5月8日にようやく撤回されましたが、発熱があっても4日間は自宅待機を求める「4日間ルール」などが国民に浸透したまま残存し、各方面に混乱と対応の遅れをもたらしてきた。結果として、世田谷区はじめ、住民の声を受けた地方自治体の一部が独自で判断し、政策転換して検査を拡大しているのが現状です。

 しかも、最初に申し上げたように、そうして検査数を増やすことで陽性者数が増えると、「感染者が多い自治体だ」と批判されてしまうという状況も続いています。

保坂 世田谷区でPCR検査を受けて陽性と判明した方は、5月8日現在で398人です。すでに退院された方が102人含まれています。東京都全体では4810人ですから、世田谷区はこのうち8%台ということになります。

 おっしゃるとおり、「軽症者へのPCR検査は医療崩壊を招くから、なるべくしないほうがいい」という言説が、日本ではかなり力を持っていました。

 その中で、世田谷区では一種の政治判断として、保健所の枠を超えて医師会などともつながって検査センターの設置を決めた。問題は陽性者数が多いかどうかではなくて、いかに重症者を早く治療につなげ、軽症の方を重症にさせないか。そして何よりどう命を守っていくか。ここが基準になるだろうと思ったからです。

 ただ、日々目の前の課題と格闘することに手一杯で、「こういう考えのもとで、これだけ検査を増やしました」ということをホームページなどで十分発信できていなかったという反省もあります。そのために「陽性者数が東京都で一番多い」という情報だけが広がって、「独自のことは何もやっていない」という誤解が生まれた面はあるかもしれません。

中島 私は、感染者数が多くなっている地域のほうが、場合によっては、この危機は早く終息するのではないかと考えています。それだけ検査がしっかりと行われて、早期発見から治療につなげることができているという証しなわけですから。「陽性者数が多い」イコール「対策がきちんとできていない」という認識はおかしい。私たちのほうも、認識を変えていく必要があると思います。

 また、自治体が独自でこうした取り組みを進めているということは、首長の方針や能力によって、人の生存そのものにまで関わる格差が生まれてきているということでもある。私は、それがここから非常に表面化してくると考えています。民主主義社会であるはずのこの社会がそういう状況にあるということを、私たちは認識しておく必要があると思います。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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