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反グローバリズムを加速するコロナ陰謀論

徹底した透明性の確保と国家間の協力体制の整備が必要だ

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で、世界中に「陰謀論」がまき散らされている。すでに、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と陰謀論」でこの問題を論じたが、ここでは、こうした陰謀論が1990年代以降の「グローバリゼーション」の流れと真逆の反グローバリゼーションを加速させている問題について考察してみたい。

「ディープステート」の流行

 まず、日本でも聞かれるようになった「ディープステート」について考えてみたい。

 この言葉の流行はトランプ政権と深いかかわりがある。2017年1月に大統領に就任したトランプは安全保障担当大統領補佐官にマイケル・フリンを任命したが、2月に辞任に追い込まれた。補佐官就任前のフリンがセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と対ロ制裁問題などで話し合っていた疑惑が許可なしに民間人が外交交渉に干渉することを禁じた法律に抵触するおそれがあったことなどが背景にある。

拡大FBIへの偽証罪で告発され出廷後、裁判所を出て車に向かうフリン前大統領補佐官(左)=2017年12月1日、米ワシントン

 これを契機に、文化的にマルクス主義の「遺伝子」をもつグローバリストや銀行家などで構成される隠れた政府、すなわちディープステートがトランプ政権を攻撃しているとの議論が展開されるようになったのである。

 トランプ自身、この説をまとめた文書を目にして以降、ディープステートによる陰謀論に傾くようになる(2017年8月10日付「ガーディアン電子版」を参照)。文書は7ページにわたっており、国家安全保障会議(NSC)戦略計画局のリッチ・ヒギンズが2017年5月に書いたとされる。

 「トランプ政権は、大統領を最初に傷つけ、その後非合法と決めつけ、最終的にやめさせるように仕組まれた破壊的な情報キャンペーンに苦しんでいる」というのが出だしである。そのなかで、ディープステートは「本当に地球を支配する神となっている」と書かれている。まさに、陰謀論に毒された典型となっている。

 なぜこんな文書が書かれたかというと、トランプ政権内の対立に起因している。フリンの後任に任命されたハーバート・マクマスター補佐官は2017年4月、フリンに近い考えをもつスティーブ・バノン主席戦略官をNSCからはずすことに成功する。だが、こうした政権内部の暗闘がディープステート論に火をつけるのである。なぜならフリンに忠誠を誓っていたヒギンズはマクマスターを標的にしてこの文書を書いたとみられるからである。

 ところが、ヒギンズはマクマスターによって辞任に追い込まれる。ただ、その過程で広まった文書がトランプの息子の目に留まり、大統領のデスクに届けられたのだ。その内容を気に入ったトランプだったが、筆者であるヒギンズが辞めさせられたことを知ると、激怒したという。それが、2018年3月のマクマスター辞任へとつながってゆく。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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