神津里季生・山口二郎の往復書簡(2) あいまいな構造が日本を覆ったわけ
2020年05月14日
連合の神津里季生会長と法政大学の山口二郎教授の「往復書簡」。2回目はコロナ危機下であらわになる「政治の無残」を問題視する神津会長の書簡に対する山口教授の返信です。
コロナ危機をさらに深刻にした中途半端であいまいな政策推進構造
神津里季生様
お手紙有難うございます。新型コロナ危機に対して政府が見当違いの政策を繰り出す一方、不要不急の検察官の定年延長の立法を力ずくで進めようとするのを見ると、わが国の政治が底なしに劣化したことにため息をつくばかりです。
政治改革を論じ始めておよそ30年、私にとっては人生の半分になろうとしています。政治、行政の制度を変え、野党側の再編成をして、その挙句がこの惨憺(さんたん)たる政治かと思うと、この間、何をしてきたのかと虚しさを覚えます。
もちろん、嘆くだけでは愚かです。まず、なぜこのような無力な政治を作り出したのかを明らかにしなければ、次の改善もありえません。
現在の日本を支配しているのは、中途半端であいまいな政策推進構造だという神津さんの指摘には同感です。私は一応政治学の研究者なので、このあいまいな構造がなぜ日本を覆っているのか、絵解きをしなければなりません。
先の大戦中の「戦力の逐次投入」以来、あいまいな構造は我が国の宿痾(しゅくあ)と言われてきました。それを打破するために、30年前から政治、行政の改革を行ったはずです。その改革が実を結ばなかったという面もありますが、むしろ改革があいまいな構造を一層拡大、強化したという面もあるように思います。
以下、悔恨を込めて改革の簡潔な総括をしたいと思います。
一連の制度改革には、十分な理由があったと今でも思っています。冷戦の終わり、バブルの崩壊、高齢化と人口減少など、1990年代に進んだ巨大な環境変化に対応して、戦後日本の社会経済システムを転換しなければならないという問題意識は、当時、保守、革新にかかわらず、また経済界、労働界の立場を超えて共有されていました。
にもかかわらず、新しいシステムを立案、決定すべき政治、行政の体制は、利益誘導政治や旧套墨守の縦割りにからめとられ、硬直化していました。だからこそ、改革が必要とされたのです。
そこで追求されたのは、求心力の強化でした。政党であれ、行政府であれ、各論反対を乗り越えて必要な政策転換を実現するために、全体を見渡して国益を認識し、政策を実現するシステムを作るべく、あえて強い権力を作り出す制度改革を行いました。あいまいな構造を打破し、責任の所在を明確にしたうえで、大胆な政策を実現することが当初の意図でした。
その結果、どうなったのか。いま、行政府においては首相官邸に各省がひれ伏し、自民党においては反主流派が風前の灯火となり、国会においては野党が無力のままです。30年かけて目指してきた制度改革の帰結が、まさに安倍政権の下で起きているということになります。ただ現状が、目指してきた、全体を見渡して国益を認識し、政策を実現するシステムになっているかというと、そうではありません。
確かに安倍首相に権力が集中していますが、
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