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中国の「コロナ外交」は夜郎自大~張倫 CYセルジー・パリ大学教授が語る母国の姿

自己陶酔で傲慢な外交が支援先への感謝要求や批判者への恫喝につながっている

吉岡桂子 朝日新聞編集委員

自己陶酔で傲慢な「新毛沢東主義外交路線」

――在仏中国大使館が4月12日付けでホームページに掲載した「ゆがめられた事実をただす パリ駐在外交官の考察」という文章に対する抗議ですね。中国のコロナ対策の正しさを強調するとともに、「武漢封鎖後、欧米諸国は何をしていた」と指摘し、選挙の集票のために政治家がののしりあって「庶民の命をウイルスによる犠牲にさらしている」「(西洋の)養老院で老人が見捨てられて餓死していく」などと批判していました。

 中国はそうした反論を世界中で展開し、摩擦を引き起こしている。西洋の主要国の中でもフランスは、(元大統領の)ドゴール氏の独立外交路線の伝統もあって、中国とは友好的な関係を築いてきたと思います。人権や自由を重んじる国ですから、天安門事件は中国に対する強烈な抗議を引き起こしましたが、90年代初めに鄧小平氏が加速させた改革開放政策が進展するにつれ、批判の声は少しずつ小さくなっていきました。

 欧州の人々の間では、曲折はあっても、中国の政治体制が漸進的な改革を通じて変わっていくという期待がうまれていたと思います。チベット問題などを抱えつつも、ほかのアジアの国々のように、経済成長に伴ってより民主的に変わっていくと。世界貿易機関(WTO)への加盟(2001年)や北京五輪(2008年)も、その期待を後押ししました。

 ところが、習近平政権になり、大量の弁護士や宗教家を拘束するなど、欧州が価値観としてこだわっている改革を逆行させただけでなく、経済力を背景にした居丈高な膨張主義が目立つようになった。

――コロナ禍でも、中国の外交官たちが国内では禁じているツィッターなどを駆使して、攻撃的な言葉で自国への批判に対して反論する姿勢が目立ちます。中国で2018年に大ヒットした愛国映画『戦狼』になぞらえて「戦狼外交」と欧米メディアを中心に呼ばれるようになっています。欧米で増える感染者や死者を見ながら、自国の対応を誇りに思っている人々も多いと感じます。

 私は「新毛沢東主義外交路線」と呼んでいるのですが、自己陶酔で傲慢。こうした側面が、コロナでも支援先への感謝の要求や批判者への恫喝につながっているのでしょう。もっとも実のところ、これは主に国内向けで、中国政府の自信の欠如ともいえるのですが……。いずれにせよ、これでは、改革開放を通じて得てきた前向きのイメージは失われてしまうでしょう。

「頼りにする」と「警戒」で対中観が二分する欧州

――新型コロナが中国で最初に流行したことから、欧州などでは差別的な発言や行動が中国をはじめとするアジア出身者に向けられていたことが伝えられています。イタリアに住む日本人の知人も道で「コロナ!」と指さされ、嘲笑されたと嘆いていました。

 新型コロナの件では、(アジア人への差別のような)そういうこともあったでしょう。もちろん、(差別には)注意し、声を上げて批判しなければなりません。ただ、私はそれが欧州で普遍的に起きているとは思わない。限られた話だと思う。私は長年のフランス生活でそうした蔑視にさらされたことはありません。

拡大John Kehly/shutterstock.com

――米国のピューリサーチセンターの調査によると、欧州の中国に対する好感度は、日本の中国に対する好感度と比べて、基本的に高めに推移してきました。コロナ前の2019年12月に発表された結果でみても、中国を「好ましく思う」が仏独英イタリアなどで3割を越えています。日本はわずか14%です。

 物理的な距離の要因が大きい。欧州から中国を見るのは、霧の中で花を見るようなものです。よくわからないし、美しく見える。安全保障上の脅威も相対的に少ない。ただ、ギリシャやスペインなど南欧や東欧の国々をのぞけば、

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筆者

吉岡桂子

吉岡桂子(よしおか・けいこ) 朝日新聞編集委員

1964年生まれ。1989年に朝日新聞に入社。上海、北京特派員などを経て、2017年6月からアジア総局(バンコク)駐在。毎週木曜日朝刊のザ・コラムの筆者の一人。中国や日中関係について、様々な視座からウォッチ。現場や対話を大事に、ときに道草もしながら、テーマを追いかけます。鉄道を筆頭に、乗り物が好き。バンコクに赴任する際も、北京~ハノイは鉄路で行きました。近著に『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(https://www.amazon.co.jp/dp/4093897719)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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