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新型コロナで変わりゆく世界~「定住旅行家」の目(上)

暮らしを体験した世界各地は今、どうなっているのか……

ERIKO モデル・定住旅行家

Sergey Nivens/shutterstock.com

 人間が容易に移動できるようになったこの時代。グローバル化の進展に伴って人の行き来が盛んになることで、私たちは世界の様々な地域に足を踏み入れ、多様な世界観を覗き見ることが可能になった。それと同時に、人に感染するウィルスもまた、急激な速さで世界中に蔓延(まんえん)するようになった。

 筆者はこれまで、1年の半分を海外で過ごしてきた。グローバル化を最大限いかしてきたといっていい。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行で、そんな暮らしもいったん休みだ。自ら出かけて、暮らしを体験してきた世界の様々な地域は、いまどうなっているのか。その様子をお伝えしたい。

8年間の旅行生活が突然ストップ

 筆者がライフワークにしている「定住旅行」とは、国内外のある地域の家庭に一定期間(1ヶ月〜3ヶ月)滞在し、生活を共にしながら、家族らの生活やその土地の文化、習慣を配信するというものである。

 旅することが目的ではなく、現地の人たちの暮らしを体験するための一つの手段として、旅を活用している。なぜ、定住旅行のようなスタイルで世界中を訪れ、交流しているか。きっかけは、スペイン語留学で訪れたアルゼンチンでの”変革体験”、すなわち人生の根本を変えてしまう体験にあった。

 当時、語学学習にしか興味がなかったのなかった筆者は、ある日、アルゼンチンの首都ブエノス・アイレス南東部にあるボカ地区――名門サッカークラブ、ボカジュニアーズの本拠地であり、タンゴが生まれた場所としても知られている――を訪れた。所用をすませて、帰宅しようとバス停に行ったところ、バス代の1ペソが財布に入っていない。

 困っていると、たまたまバス停に現れた貧しい身なりの女性が「どうしたの」と尋ねてきた。バス代がないと言うと、彼女は1ペソを差し出した。その瞬間、私のなかで何かが大きく変わった。資本主義的な成功を追い求めることへの疑問が浮かび、豊かさの定義根本から揺らいだのだ。

 物事についての考え方、自分が抱いている常識が、違った場所に置かれると、新しい装いで、自分に語りかけてくることがある。そうした体験は、我々が生きていく上でのヒントになったり、問題を解決に導く糸口になることがしばしばある。

 このアルゼンチンでの経験を契機に、私は中南米そのものに興味をもつようになった。中南米と日本の架け橋になろうと、1年4ヶ月をかけて25カ国を訪問、現地の人の家庭に滞在して、その国の生活やその土地の文化、習慣を伝えた。

 これ以降、いわゆる定住旅行家として、中南米以外の様々な国や地域にも出向き、現地の人たちとの交流を重ねている。これまでに50カ国で103の家族との生活を体験してきた。1年の半分を定住旅行に費やすようになって、8年が過ぎた。そのサイクルが今年、唐突にストップした。

「定住旅行」に必要な準備とは

 ところで、宿泊施設、航空券の確保、訪れたい場所、食べたい物を下調べし、必要な物を調達するというのが一般的な旅の準備だろうが、筆者の定住旅行の場合は、現地の家庭に長期滞在をするのが目的なので、準備が通常の旅とは異なる。

 なにより重要なのは、ステイ先を見つけること。最近はAirbnbやカウチサーフィンなどで簡単に希望先の滞在先を見つけることができる便利な世の中になったが、筆者はネットは一切使わないようにしている。主な理由は、安全性の確保と人との繋がりの物語を大切にしたいからだ。

 また、渡航する半年くらい前からその国の歴史や社会、文化について調べ、現地で使われる言語の最低限の読み書きと日常会話を解すようにするために、教室にも通う。

 渡航先は英語圏でない場所も多い。たとえ英語で会話できる人が多くとも、その土地で話されている言語を理解しなけば、彼らのことは到底分からない。また、相手も常に外国語(英語も彼らにとっては外国語だ)で会話することに疲れる。外者(外国人)としての視点と、内者の視点の両方を理解するためには、言語は非常に有意義なものである。

 言語理解は、自分の身を守るためにも非常に役立つ。現地の治安は常に変動し、地域や地区によって危険の種類が違うことが多々ある。安全に必要な情報を得るためにも、現地の言語でコミュニケーションを取ることは不可欠だ。

 治安が不安定な地域を乗り物で移動するときなどは、乗客がどのような会話をしているかを聞き取り、どのような社会階級の人たちが利用しているかなどの判断もできる。筆者は現在6ヶ国語を解すが、それ以外の言語圏を訪れる時は、教室などに通って学習するように心がけている。

 渡航までの時間というのは、出発までを待つ時間ではなく、現地での体験を有意義なものにするための長い準備期間なのである。

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