2020年05月22日
※この記事は日本語と英語の2カ国語で公開します。英語版でもご覧ください。
世界のある地域では、 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的大流行のピークを過ぎたと楽観視するようになってから数週間が過ぎたが、私たちはいま、いかに人々の類稀なる献身的な行動がCOVID-19に関して一国の運命を変えることができるかを目の当たりにしている。
引退した医師が第一線に戻り、看護師は自分でマスクを作って患者を治療し、我が子とも会わずにウィルスに感染した人々を看護している。
その多くは女性である。世界中の医療従事者の70%、家庭や地域社会における介護分野の大多数は女性が占めている。しかし、その女性たちは、不平等や障壁に苦しんでいるにも関わらず、COVID-19に対する不可欠な業務に従事しているのである。
だからこそ、5月7日に国連が発表したCOVID-19に対応するための「改訂版Global Humanitarian Response Plan(世界人道支援計画)」では、女性に焦点を当てている。女性と少女に投資することは、すべての人に利益をもたらすことを、私たちは過去の経験から学んでおり、今またそれを COVID-19 で再認識している。
病院でも家庭でも、女性は 最前線でCOVID-19 と闘っている。また、各国、各地域における活動が世界全体の利益につながることも分かっている。この世界的大流行に関しては、世界中が同じ困難な状況にあるということは明確であり、世界が一丸となって行動しなければ、この困難に打ち克つことはできない。
国際労働機関(ILO)によると、全世界の無償介護労働時間の76%を女性が担っている。患者の世話や、ウイルスの蔓延(まんえん)防止に関しては、より大きな役割を担うことになるはずだ。
女性が自身の身を守りつつ、その役割を遂行するために不可欠な物資を供給し、支援をする必要がある。それは正しいことであるだけでなく、女性が人々のケアをし、命を救う活動を継続できるという点で効率的で賢明な方法でもある。
医療崩壊が危ぶまれるなか、感染者が在宅で介護されるケースも増え、女性の役割に負荷がかかり、感染のリスクによりさらされている。
さらに、COVID-19 のパンデミックと闘う中で、克服すべきもう一つの“疫病”がある。それは、女性に対する暴力と、女性を貧困状態に追い込み、必要なサービスさえ入手できなくする不平等という病だ。
都市封鎖と隔離は、COVID-19 を抑圧するためには不可欠であることは明白であるが、同時に虐待するパートナーと閉じられた空間に女性たちを追い込むことにもなりかねない。ここ数週間で、多くの国でDVの報告件数が劇的に増加しており、幾つかの国では支援を求める女性の数が倍増している。
長年の戦争と貧困によってすでに悪化している人道危機的状況は、さらに悪化している。女性とその子どもたちが虐待について報告したり、安全でいられる場所や避難先がほとんどなくなってしまった。
このウイルスの撲滅に根本的に取り組むためには、女性の健康と権利を促進し、保護する必要がある。それは、女性自身の健康と幸福のためでもあるとともに、女性が他の人々の健康を促進し、保護することに繋がるのだ。
そのため、 COVID-19 に取り組むための「世界人道支援計画」では、最も脆弱(ぜいじゃく)な状況において女性の健康と権利を守るため、具体的な措置を定めている。
例えば、女性や少女が安全に利用できる手洗い施設の設置や、女性の健康を守るために必要な医療機器の供給、また最も必要とされている場所に救援者や物資を届けるといった対応を支援している。
さらにこの計画には、COVID-19のパンデミックにより、女性と少女が男性に比べてより大きな影響を受けているとともに、ウイルスを撃退する力を持っていることが言及されている。国連人口基金(UNFPA)はこの計画を基に得られた支援を用いて、現地の女性支援団体と協力してセーフスペースを設けるなど、女性と少女のニーズに応える活動を優先的に行う予定だ。
こうした対応は、ドナーの支援があってこそ可能となる。そして、その支援はまだ十分とは言えない。既存の人道支援や難民支援に対する拠出を維持しつつ、COVID-19への人道支援に対しても、さらなる協力に期待したい。
さらに、各国政府に対して、COVID-19に対する国家の対策に、女性に対する暴力の予防・救済策をしっかりと組み込むよう呼びかけたい。
女性たちは日々、感染者の治療とケアを行うために様々な障壁や不平等と闘い、ウイルスを封じ込めるために献身的に働き、家族や地域社会を守るために貢献している。
私たちは、病院、家庭、地域社会において、女性たちが必要とする手段とサービスを提供し、当然の権利である正義と平等を実現する義務がある。
私たちを死の恐怖に陥れているこのウイルスと闘うため、私たちができることは全て行うつもりだ。それはすなわち、こうした不平等を是正することに他ならない。さもなければ、私たちの社会はウィルスに打ち克つどころか、後退してしまうことになるのだ。
コロンビア大学とジョンズ・ホプキンス大学の医学部と公衆衛生大学院で研究者としてキャリアをスタートし30年以上、医学、公衆衛生及び性と生殖に関する健康、社会正義、社会奉仕事業分野において指導的立場で活動。1992年から2005年 にかけてフォード財団に勤務、西アフリカ代表として女性の性と生殖に関する健康やセクシュアリティ分野における先駆者として尽力。その後、アフリカ、アジア、東ヨーロッパ、南北アメリカで世界平和と社会正義を促進するプログラムを総括する副代表をつとめる。2014年から16年までUNFPAのタンザニア代表を務め、16年7月にプログラム担当の事務局次長に就任。17年10月3日から現職。
英国人。2017年5月、国連人道問題調整事務所(OCHA)のトップである現職に就任。人道・開発分野における30年以上の経験を活かし、危機発生時の国際社会による緊急援助活動を統括する。直近は英国国際開発省(DFID)の事務次官として、イラク・リビア・シリアでの紛争、ネパール・フィリピンでの自然災害に際し、英国による人道支援活動を指揮。それ以前にはDFIDのアフリカ・アジア局長として、ハイチ・ミャンマー・パキスタンなどで発生した人道危機への対応で調整にあたる。また政策とコーポレートパフォーマンス部門の局長及び財務部長も歴任し、自身のケニア・マラウィ・ジンバブエでの長期現地勤務経験や公認会計士としての資格を活かし、人道課題に取り組むにあたって分析的なアプローチを導入した。
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