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「37.5度以上が4日以上」の目安は国民の誤解だったと言い放った加藤厚労相の傲慢

PCR検査をなりふり構わず抑制して安倍政権が守りたかったもの

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 ある医師の痛切な体験と切実な訴えを紹介しよう。

 東京・銀座で痛みを和らげるペインクリニックを開業する青木正美医師は、ゴールデンウィークの直前、患者の頸部に注射をしている最中にその患者から思い切り咳を浴びせかけられた。

 ウイルスをほとんど通さないとされる医療用のN95マスクを着けてはいたが、接近して頸部に針を刺していたためにまったく動けず、飛沫をかなり浴びてしまった。患者が悪いわけではない。頸部に液を入れれば咳の出やすい場合がある。

 診療が終わりこの患者が帰る時、家族の話が出た。患者によれば、同居しているこの家族は熱を出して寝ているという。

健康保健の点数を抑えるため?

 不安を感じた青木医師は、クリニックがふだん検査の判定を依頼している検査会社に電話を入れた。1、2か月前に、この検査会社が「PCR検査を始めました」という案内を出していたことを記憶していたからだ。

 しかし、電話の向こうから青木医師が耳にした言葉は、検査拒否の冷たいものだった。

 「帰国者接触者外来と同等の規模であると都が認定した医療機関からでなければ、PCR検査依頼を受けてはならないと通達が出ています」

 「それは、どこからの通達ですか」

 「厚労省です」

 35年間医師をしている青木医師にとっては、検査を断られること自体初めての経験だった。

 1日何十人という患者を診療し注射を打つ中で、患者に打った針を誤って自分自身に刺してしまう「針刺し事故」は日常的にある。ケアレスミスではなく、何かのはずみで手が当たってしまったという小さいアクシデントは防ぎようがない。

 こんな時、事前に交わした患者との問答から患者にウイルス感染や肝炎の疑いがある時は自分のクリニックで検査して検査会社に自費で判定を依頼している。つまり、医師自身の検査と判定は医療関係者にとっては日常であり常識なのだ。

 それなのに、COVID-19については完全に検査の扉を閉められてしまった。

 驚いた青木医師は、自分自身の経験をツイッターに投稿し、医療関係者にPCR検査の扉を開けるように訴えた。

 その投稿を目にした私は、すぐにメールで連絡を取り、電話取材に応じてもらった。

 「針刺し事故とか、ちょっとしたアクシデントはどうしても避けられないんです。こういうちょっとした事故による感染の危険性は普通の人の何万倍も多いんです。だから、必ず検査することがわれわれ医療者の常識中の常識なんです。自分たち医療者を守ることが患者さんを守ることになるからです」

 青木医師が開業している青木クリニックは銀座のビル街の地下にある。このため「三密」状態を少しでも解消するために空気清浄機を5台買ってフル稼動させている。それでもウイルスの存在はもちろんわからない。顔見知りの患者が多いが、COVID-19に感染しているかどうかはわかるわけがない。

 「PCR検査は保険内でやります、と安倍さんが言ったでしょう」

拡大コロナ対策について記者会見に臨む安倍晋三首相(右端)=2020年2月29日、首相官邸

 安倍首相は2月29日の記者会見でPCR検査の保険適用に言及、3月6日から適用となった。

 「断られた時最初に思ったのは、ああこれは健康保険の点数を抑えるためだな、ということです。保険適用になれば末端の開業医のPCR検査のオーダーがものすごく増えて、医療費がどんどん膨らむでしょう」

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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