サイバー空間で時代を切り裂く「裂け目」
2020年05月21日
インターネットサービス事業者(ISP)や各国政府がインターネット上のコンテンツを平等に扱うべきであるとする考え方がある。これは「ネットワーク中立性」とか「ネット中立性」と呼ばれている。拙著『サイバー空間における覇権争奪』でも指摘したように、この概念は「言論の自由」とネット中立性を結びつけて、ISPを中央集権的に強力に規制することで中立性を守ろうとする主張に傾く傾向がある。
逆にネット中立性への反対者は、ISPへの厳しい規制はネット上のイノベーションを阻害するとしている。この背景には、無線網を拡充する過程で光サイバー網を構築してきたAT&Tやベライゾンが外部の会社に光ファイバーを適正にリースすることが義務づけられておらず、2社ともに光ファイバー網の利用について、外部の会社を差別的に扱ってきたことがある。
こうした動きに対して、2014年11月、当時のオバマ大統領は、①オープンで自由なインターネットを強く支援、②米連邦通信委員会(FCC)がオープン・インターネット規則(ネット中立性のこと)を制定する、③インターネットが米国の経済、社会にとって不可欠であるため、規則が必要──との認識を示した。2015年2月、FCCはこれに沿ったネット中立性命令を採択し、翌月公表した。
しかし、連邦裁判所は2019年10月1日、FCCの2017年の新規則を支持する判決を下した。ただし、FCCは州や地方の政府が独自のルールを採択することを妨げることはできないとした。この時点で、カリフォルニア州以外にも、ヴァーモント州やメイン州ですでにネット中立性を守るための立法化がなされており、これらの州が法執行をどうするかが注目されている。さらに、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は2020年中に同種の立法化を実現する姿勢を示している。
2019年4月10日、米下院はブロードバンド・インターネット利用者にオンライン・コンテンツへの平等なアクセスを保障する法案を通過させた。法案はインターネット事業者がビデオのようなコンテンツの配信を遮断したり遅くしたりすることを防止する規制を導入することになっている。農村部での光ファイバー網整備が遅れている米国では、ネット中立性が軽視されると、5Gの普及に際してますます格差が広がる懸念があるからだ。ただし、この法案はまだ成立していない。
EUでは、2015年11月、「オープン・インターネット規則」が採択され、2016年4月に施行された。ISP(欧州ではインターネット・アクセス・サービス[IAS]と呼ばれている)に対して、通信の公平・無差別な取り扱いを義務づけ、「合理的通信管理措置」を除き、遮断・速度低下などを禁止している。
インドでは、電気通信規制庁(TRAI)が2016年2月、データ通信サービスについて、コンテンツによる価格差を設定するといった差別を禁止する規則を制定した。
日本では、
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