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中国独自の最先端医療研究にみる「生-権力」への疑問

「ポスト近代化」の胎動がはじまっている

塩原俊彦 高知大学准教授

 2019年5月25日、世界保健機関(WHO)は、2022年1月1日に発効予定の「疾病・関連保健問題の国際統計分類第11版」(ICD-11)を承認した。疾病や死因の国際比較可能な統計基準を示すための総目録のようなもので、これに含まれるようになれば、国際的な認知を受けたことになる。

 このICD-11が特徴的なのは漢方薬(Traditional Chinese Medicine, TCM)の章がはじめて入れられたことだった。中国の伝統的な治療方法(広義の東洋医学)が世界に認められるための「偉大な一歩」となったと言える(China.org.cn 2019年5月27日付)。

 しかし、この決定は反発を受けてきた。「ネイチャー」(2019年6月5日付)によれば、一部の非科学的な実践をも正統化しかねないリスクがあり、多くの証明されていない治療法の販売を拡大することになるにすぎないという。加えて、TCMで使用するために殺される、トラ、センザンコウ、クマ、サイのような動物をますます危険にさらすことになる(CNN2019年5月26日付)。

 ここでは、中国文明が培ってきた漢方薬への批判を展開したいわけではない。とりあげたいのは近年、中国政府が先端医療研究で独自の歩みを遂げていることへの疑問である。中国・武漢を中心に広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の例からわかるように、正当性に問題のある研究がやがて世界中に大打撃をあたえる可能性がある以上、国家単位で展開される生物・医療分野の研究について再考する必要がある。

「デザイナー・ベビー」を誕生させた中国

拡大ゲノム編集の国際会議で発表する中国・南方科技大の賀建奎・副教授(当時)=2018年11月28日、香港
 2018年11月28日、香港で開催された遺伝子編集の国際会議で、南方科技大学の賀建奎准教授は、HIVへの耐性をもつようにヒトの受精卵にいわゆる「ゲノム編集」を施して誕生させた双子の赤ちゃんの存在を明らかにした。ゲノム編集により人間が望む赤ちゃんをつくり出す、「デザイナー・ベビー」という呼ばれる初の事例が報告されたことになる。

 この発表は世界に衝撃をあたえた。なぜなら日欧米ともに受精卵のゲノム編集を施し、母体に戻すことを禁止したり、公的資金による研究助成を禁止したりしているからだ。

 2019年12月30日には、中国・深圳の裁判所は「不法な医療実施」を理由に賀に3年の実刑判決をくだしたほか、43万ドル相当の罰金が科された(ニューヨークタイムス2019年12月30日付)。ほかに、一人が2年の実刑、もう一人が1年半の執行猶予となった。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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