「若者と政治」に転機が訪れた
2020年05月17日
「政治に無関心」などといわれることが多い若者たちが、政治を動かしている。
新型コロナの感染拡大で困窮する学生の暮らし。のしかかる授業料など学費の負担。たまりかねた学生たちが声を上げると、野党は学生支援法案を国会に提出。腰が重かった政府も支援策を講じる方針を固めたが、対象が限られているため、学生たちはなお声を上げ続けている。
昨年は、高校生たちの声に押され、大学入学共通テストで予定していた英語民間試験活用や記述式問題導入の見送りが決まった。私はこの動きをとりあげ、民主主義について考えるルポ(朝日新聞の連載「カナリアの歌」第5回=1月5日付朝刊)を書いたが、立て続けに若者が「政治力」を発揮する展開に、少々驚いている。ひょっとすると、若者が政治の主役に躍り出る新しい時代の幕開けをみているのかもしれない。
なかでも今回、注目しているのが、学生たちが学費に焦点をあてたことだ。彼ら、彼女らの話を聞くうち、高額な学費は、日本の民主主義を立ち枯れさせてきた病根のように思えてきたからだ。
どういうことか。まずは、この間の動きの報告から始めたい。
5月6日、立憲民主党、国民民主党などの野党共同会派と共産党による「『#つくろう学生支援法』WEBヒアリング」。感染拡大を避けるため、ツイキャスを使って催したこの会議に、大学、大学院、専門学校の学生や、これから進学をめざす高校生が、コメントやメール、電話で声を寄せた。
「バイト先が休業し、収入がありません。母子家庭で、母とは不仲です。配られる予定の1人10万円は、『実家の冷蔵庫を買う』と、世帯主の母から意気揚々と連絡がきました。この先、どうやって生きていけばいいのでしょうか。せっかく努力して入った大学も、このままでは辞めざるをえません」
「4月に世帯分離したばかりの高校3年生です。虐待を長く受けていたため、親にはもう頼れない身になってしまいました。バイトの募集もなく、ホームの女の子と『どうしてもお金がないと、水商売しかないね』という話になり、とても悲しい気持ちになりました。進学を諦めなくてはならないのでしょうか」
切ない訴えに、読み上げる議員が声を詰まらせる。
教育らしい教育を受けられていないと訴える声も相次いだ。
「授業料を払っていますが、一回も学校に行けていません」
「授業はレポートばかり。図書館も使えず、本を遠慮なく買える人しか、ちゃんとレポートを書けません。体育大学の人に話を聞くと、実技ができないので『ゴルフについてのイメージを書いてください』みたいな授業になっている」
野党の学生支援法案は、▽大学に授業料の半額免除を求め、そのための費用を上限つきで国が補助する▽アルバイトなどの収入が減った学生に最大20万円を支給する――ことが柱だ。それじたい、学生の要望を踏まえて練ったものだが、次々に寄せられる声から、法案では想定していなかった問題も浮かんだ。
たとえば、「最後の手段は休学ですが、私の大学は休学費が90万円もかかります。そのために退学を検討している学生がいます」。野党議員は「法案とは別個に、大至急、勉強してとりくみます」と引き取った。
政治を突き動かし、流れをつくったのは学生たち。中でも大きな役割を果たしたのが「高等教育無償化プロジェクトFREE」である。
FREEは緊急事態宣言発令後の4月9日から、コロナが学生生活に及ぼしている影響についてインターネット調査を開始。21日までに回答した514人のうち「13人に1人」が退学を検討していると発表した。27日までに回答した1200人ぶんの2次集計では「5人に1人」に深刻化していた。この調査結果は国会でも幾度となくとりあげられ、放ってはおけない問題だという理解が広がった。
日本記者クラブは5月1日に、この問題で動くふたつの学生グループの代表の記者会見を催した。そのひとりがFREE代表で東京大学4年の岩崎詩都香さん(21)だ。Zoomを通じたオンライン会見で、岩崎さんはこう話した。
「いまのコロナ禍によって学生が突然困窮している印象をおもちの方もいるかもしれませんが、そうではありません。
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